2017年4月25日火曜日

第1608話 ブリにクジラを食べさせた (その5)

浅草の昭和酒場「酒富士」の店先で
1枚の写真に見入っている。
当時の店主の初代と二代目に女性従業員の面々、
カウンターにはビールを飲む常連客。
いい写真である。
写真から昭和の匂いが立ち上ってくるかのようだ。

壁の品書き札に目を凝らすと、
かろうじて品目とその値段が読みとれる。
とんかつ・かきフライ・サラダが30円。
冷奴・めざし・きんぴら・生玉子が20円。
生玉子を2個とれば、
とんかつやかきフライより高くなっちゃうんだ。
この時代の酒場にサラダがあったんだ。
いや、驚くネ。

面白かったのはめし。
いわゆるライスであるが(大)30円、(小)20円とあった。
めし(小)、冷奴、生玉子の3点セットと
とんかつ&かきフライの2皿が同値だヨ。

想像もつかない世界が昭和33年の浅草にあったのだ。
いや、浅草に限らず、上野・池袋・新宿・渋谷も
似たり寄ったりだったハズ。
ただ銀座だけは、こうはいかなかっただろうヨ。

引き戸を引いて店内へ。
ここ数ヶ月で三度目の訪問である。
前々回は昼過ぎに天丼を食べた。
前回は夜、真鱈の白子ポン酢がすばらしかった。

店内は8割の入りである。
幸いなことにカウンターの一番奥が2席空いていた。
しめしめ・・・。
マギー司郎の言葉を借りれば、
横文字でラッキーということになる。

ふと見ると、奥から3席目にうら若き外国人女性が独り。
おそらくそのうち会話を交わすことになると予測し、
J.C.がその隣りに座った。
言い訳をするつもりはないが
女性だからというわけではなく、男性でも同じこと。
浅草で飲むと外国人に接するケースが多いのだ。

カウンターの隣人の顔はなかなか拝むことができない。
もろに覗いたら失礼だし、
相手に気づかれちゃうからネ。
それでも彼女がかつ丼を食べているのは判った。
ドンブリの脇には日本茶の湯飲みが置かれ、
晩酌ではなく、晩めしであることも判った。

=つづく=