2017年6月12日月曜日

第1642話 小岩はコワいわ (その4)

新小岩のハズレ、「彩波」からの帰り道。
帰り道といってもこのまま帰宅するわけでは毛頭ない。
来るときに通りすがった1軒。
記憶を呼び起こされた町の中華屋である。

「小川屋」は平和橋通りに面しているため、
裏路地といった感じはないが、ずいぶん裏ぶれていた。
ちょいと中をのぞいたところ、
老店主が独りで切り盛りする様子であった。

よみがえった記憶は1本の寅さん映画だ。
1971年4月に封切られた「奮闘篇」がそれ。
自著「文豪の味を食べる」から
渥美清の稿を部分紹介してみたい。

寅さんシリーズ第7作「奮闘篇」に登場した、
沼津駅前のちっぽけなラーメン屋。
そこで寅次郎とマドンナ役の榊原るみが遭遇するのだが
店のオヤジが先代の5代目柳家小さん。
3人のやりとりが何ともおかしく、
短い場面ながら忘れえぬ名シーンとなった。

ちなみにこの第7作はシリーズ全48作品中、
マイ・ベストでありまする。

「小川屋」の店主は
小さん師匠とは打って変わって痩せ形だから
ユーモラスな雰囲気はまったくないけれど、
店のたたずまいというか、
長い月日の経過が育んだ裏ぶれ感に
共通項を見いだすことができた。

焼きとん「彩波」で飲み始めたときは
あとで立ち寄ろうと腹積もっていたが
何せ、最後のボロネーゼのせいで満腹状態。
とてもとても中華そばはムリだろう。
それでも別腹のビールは飲めるんだけど―。

はて、どうしたものかのぉ?
てなことを思案しながらヨタヨタ歩いていた。
すると、裏道に1軒の店が現れた。
中華そばならぬ日本そば屋である。

昭和の昔ならどんな場末の商店街にも
1~2軒はあった、あの手の日本そば店だ。
見るからに歴史を感じさせる店構えで
だいぶくたびれてはいるが
うす汚れた感じはまったくない。

それよりも何よりも
驚いたのはその値段である。
立ち食いそば屋じゃあるまいし、
今どきこんな値付けでやってイケるの?

=つづく=