2017年6月22日木曜日

第1650話 60年の月日を数えて (その5)

赤羽はOK横丁の「酒房 たちばな」にて
無類の美酒、雅山流 葉月に合わせる肴を選んでいる。
思案の末に白刃の矢を立てたのは
おさしみたらこだった。
助宗鱈の真子の塩蔵物・たらこは
好物、いや、大好物の一つである。

複雑怪奇な味がする明太子は常々避けているが
たらこには目がないと言っていいほどだ。
しかも”おさしみ”を冠するくらいだから
生食向けの上等なたらこにほかあるまい。

やや大き目なのが包丁を入れられ、
一本(半腹)付けできた。
間髪入れずに一片を口元に運んだ。
あとを追いかけるように葉月を流し込む。
いいネ、いいネ、いいですねェ。

この世におけるわが最愛の飲食物、
ラガービールとともにやる、
たらこも素晴らしいが
さすがに日本酒とのカップリングには敵わない。

さわやかな冷涼酒には
油っ気のない淡白なつまみがピッタリ。
油っ気は必要ない代わりに塩気は重要で
生のたらこがその望みをじゅうぶんに叶えてくれている。

いや、実にけっこう。
このコンビネーションを何に例えよう。
お蔦・主税、お染・久松、
はたまた、遊女小春と紙屋治兵衛か。
洋物ならば、ボニー&クライド、
いやロミオ&ジュリエットかもしれない。

葉月を飲み終えて、まだ何かもう1杯ほしい。
時間はあまり残されていないが
前回同様に木曽の七笑をお願いした。
ただし此度は燗ではなく常温で―。

たらこが少々残っていたが、つまみも何かもう1品。
目にとまったのは
仙台の三角定規油揚げ、作り立てシュウマイ、
皮から作ったワンタン、和牛入りハンバーグ等々である。

この店のあとは焼きとん屋で飲む予定。
やはり肉っぽいのは避けておこう。
さすれば三角定規だろうか。
結局は薬局、まぐろのづけを注文した。

=つづく=