2017年7月12日水曜日

第1664話 大森で小盛り上がり (その4)

そうしてやって来た大森・地獄谷。
酒場・料理屋・スナック、いろんな業態がひしめいている。
まずは南の端から北の端へ進み、
どん突きで引き返して、ザッと一往復。
これから訪れる店の品定めである。

今一度、北に向かって再びどん突きへ。
見上げれば鉄階段の2階に
バーらしき灯りが点っている。
マンハッタンのウエストサイド風と言えなくもない、
意を決してアイアン・ステアーズを上っていった。

2階にあったのは
オープンして数ヶ月のシンガポーリアン・バー「M」。
1980年代に4年の長きを棲み暮らしたシンガポール。
深い愛着を持つ身である。
ここは一も二もなく止まり木に―。

  ♪   あなたの似顔を ボトルに書きました
     ひろみの命と 書きました
     流れ女の さいごの止まり木に
     あなたが止まって くれるの待つわ
     昔の名前で 出ています   ♪
          (作詞:星野哲郎)

小林旭が止まった止まり木とは
まったく趣きを異にするバー・カウンター。
取りあえずの1杯はシンガポールのラガー・ビア、
タイガーの小瓶である。

先客は4人連れの男女で
止まり木に止まらずダーツに興じていた。
そんな彼らも20分ほどでヨソに移ってゆき、
店内は急に静かになった。

店を営むのは中年のご夫婦。
以前もこの物件はバーだったようで
ほとんど居抜きのカタチを取ったから
内装に金をかけずにすんだのだという。

2本目のタイガーとともに
東南アジアの焼き鳥、サテーを所望した。
焼き鳥とはいうものの、
チキンとポークを混ぜてもらう。

定番のピーナッツソースを絡めていただくが
ここではカレーの風味を加えている。
心なしか東南アジア色がより深まった気がする。
大手焼き鳥チェーンは利用したことがないけれど、
おそらくその水準は超えているだろう。

滞在時間は1時間弱。
鉄階段を下り降りて
再び地獄谷の検証を始める二人であった。
夜はまだ浅い。

=つづく=