2017年10月31日火曜日

第1733話 私を森下に連れてって (その3)

「魚三酒場 常盤店」の最寄り駅は森下だが
番地は江東区・常盤、深川芭蕉庵跡にほど近い。
客がドッとなだれ込んで店内はやおら活気づいた。
接客のオバちゃんたちは別段、あわてるふうでもなく、
毎日のことだから手慣れたものである。

大き目の四角いお盆に刺身の皿が数枚。
これを持ち回って客に売りさばいてゆくのだ。
どんな皿かとのぞいてみれば
まぐろ赤身、かんぱち、真鯛の3種類。
いずれも単品で盛合せではない。

第二ラウンドは
まぐろ中とろ、かつお、舌切り&とり貝。
舌切りというのはアオヤギ(バカ貝)のことで
貝類だけが合盛りとなっている。

通人はここでむやみに手を出さない。
4人グループだったかな?
ほとんど全ての皿を横一線に並べちゃってるヨ。
 ♪  サカナ サカナ サカナ~
   サカナを食べよう    ♪
そんな状態である。

刺身がメインの酒場だから
その気持ち判らないではないが
あまりみっとものいい所業ではない。
もっとも大衆酒場で気取ってみても
どうなるもんではないけれど、
掟というか、ルールと呼ぼうか、
それに似たものがあるんじゃなかろうか。

刺身の皿には手を控えたわれわれは瓶ビールで乾杯。
この瞬間のために今日も生きてきた。
相方はあらかじめ当店の下調べを済ませており、
必食の品を絞り込んでいた。
小肌酢、ハゼ天ぷら、つみれ汁の三品をお願いしたいとのこと、
まずは夢をかなえて差し上げる。

そうしておいて当方は刺身の注文だ。
ところが多くの短冊から選びに選び抜いた、
コチもなければカワハギもないって言うじゃないの。
だからって、今さらまぐろでもあるまいし・・・。
今日のところは刺身をパスろう。
よって珍しい穴子のフライをお願いする。

待っているあいだに
持ち回りの第三ラウンドがやってきた。
おっと、シャコがいるじゃないの。
当たり外れの大きいシャコだが見た目はよさそう。
即、手を挙げたのであった。

=つづく=