2017年10月13日金曜日

第1721話 名月とザザムシ (その1)

今日は13日の金曜日。
世の中が平和であって
際立った災厄に見舞われなければ、
それが一番なんだけれど―。

10日近くも前のことで恐縮ながら
10月4日付けの朝日新聞をめくっていて
目がとまったのは文化・文芸欄。
「語る―人生の贈りもの―」というシリーズで
語っていたのは作家の浅田次郎である。
朝日にも浅田氏にも無断で
部分的に引用させていただこう。

《作家としての恩人は、井上ひさしさんだった》

最初に会ったのは21歳の時。
表参道で後年の女房になる人とウナギ食ってたんだよ。
見栄をはって、勝負うなぎ。
並でいいなとか言いながらさ。
そしたら隣に座ったオヤジが「特上」とか言って、
この野郎と思って振り返ったら、どっかで見た顔。
小説家は外で会って分からない人もいるけど、
井上ひさしさんは不利な顔だぞ。
どんな遠くから見ても分かるもんな。

作家になってからは、折々に見守ってくれた人でした。
吉川英治文学新人賞も、
その本賞の時も僕の小説をことごとく
読んでいただいた人なんです。
〇はつけてくれてると思います。
小説の神様が引き合わせてくれたんだろうね。

亡くなった時、僕は諏訪の温泉にいました。
出てくる食べ物が蜂の子、ザザムシ、馬刺し、桜鍋。
一切駄目。
女将に、変えられますかって。
ウナギならと言うんで、出前を取ってもらったんです。
その時は「特上」でね。
ふっと井上さんのことを考えたんだ。
ウナギが好きな人で、何回もごちそうになってね。
そこに電話がかかってきた。
「井上さん亡くなりました」って。

なるほどねェ。
人の世の因縁を思わずにはいられないな。
言われてみれば、
井上ひさしはウナギを好みそうなお顔立ち。
正岡子規や斎藤茂吉を横綱格に
とかく文人には極端なウナギ好きが多い。

将棋界からは引退したが
タレントとして今が盛りのひふみんも
異常なウナギっ食いとして世に知られている。
将棋会館で対局の際は昼も夜もウナギだってんだから。

さて、J.C.がこの新聞記事に惹かれた理由は
ウナギじゃなくてベツのところにありました。

=つづく=