2018年4月9日月曜日

第1845話 桜のあとを 櫻で締める (その2)

鶯谷は根岸の里
女性だけでは入店できぬ、
フェミニズムなんぞ、クソ食らえの酒亭にいる。
幕末に鍵屋の辻(現三重県・伊賀市)から遠来して
開いた酒屋をルーツとする「鍵屋」である。

外国産ならともかくも
国産ビールの小瓶は実に久しぶり。
グラスに注いで一気にノドへ流し込んだ 
人の世にかような美味がほかにあろうか。

江戸の市井に生きた人々にも
飲ませてやりたいくらいのものだ
銭形平次、大岡忠相、水戸黄門、平手造酒、
虚実ない交ぜに、さまざまな候補者が思い浮かぶ。
赤胴鈴之助はお子チャマだから駄だよネ。
 
ヨタはたいがいにして品書きを手に取った。
これも変わらないねェ。
焼き鳥は皮ともつ(レバー)の2種のみ
どちらも甘辛醤油味の小鍋仕立てに応用が効く。

2本しばりの鴨ねぎ串焼き。
1本でもOKの鰻くりから焼き。
豆腐は冷奴と煮奴の二本立て。
他店ではメニューに載せにくい、
大根おろしまでリストアップされている。

共通するのは作るのに手がかからず、
食べるのに時間のかからない料理であること。
暗に ”長居はなるべくご遠慮願います” と訴えている。
サッと切り上げるのが粋、ダラダラ居座るのは野暮、
ということであります。

小瓶はすぐにカラとなり、日本酒に切り替えた。
ラインナップは櫻正宗、菊正宗、大関のトリオ。
そう、お察しの通り、桜のあとは櫻でしょ。
正一合を冷や(常温)でいただく。
それにしてもこの銘酒を飲ませる店が少なくなったなァ。

女将からオチョコとグイ飲みを差し出され、
気の迷いから普段使わぬグイ飲みを手に取った。
瞬時に後悔したんだけどネ。
グビッ、う~ん、サラリとしていながら
ほのかなコクが鼻腔を抜けてゆく。

次々に客が現れ、17時半には満席となり、
立ち待ちまで出る始末。
そりゃそうだヨ、開店後30分じゃ誰も席を立たぬわな。
こんなとき、お店に歓ばれるのは
スッと会計を済ませるKKK(気配りの利く客)だ。

櫻正宗をキッチリ一合飲み干したことだし、
ここは後進に席をゆずるとしますかの。
ほろ酔い気分ででズンズンと
浅草に向かって歩き出しました。

「鍵屋」
 東京都台東区根岸3-6-23-18
 03-3872-2227