2019年6月28日金曜日

第2164話 八十分間銀座一周 (その1)

本日は銀ブラじゃなくって銀フラのお話。

綾瀬にて踏まれ蹴られたその翌日。
同じメトロ・千代田線を利用して
降車したのは日比谷駅。
つれなくフラれたメーカーを潔く忘れ、
他社の夏物を見繕うつもりだった。

前日同様、まずは腹ごしらえである。
この日のディナーは自宅の予定。
出掛けにはちゃあんと、
バルバレスコを抜栓してきたもんネ。
アマトリチャーナのソースも仕込んであるし、
あとは帰り掛けに白身魚、あるいはチキンかポークを
そのときの気分次第で仕入れればよい。
したがって重い食事はいけない。
まっ、いつものことですがネ。

地下鉄の改札前につながる、
東京ミッドタウンを抜けて地上に出た。
目的地の日比谷シャンテは目の前である。
行き当たりばったりで界隈を物色するものの、
気に染まる店は1軒としてない。

JR有楽町駅前を一めぐりしても現状打破に至らない。
外堀通り(東京都道405号外濠環状線)にやって来ると、
あら、珍しや、かなりの規模のデモ隊が行進中である。
おうおう、いよいよ日本人も
香港市民のサポートに立ち上がったか!
てっきりそう思ったのは早とちりの勘違い。
シュプレヒコールは年金問題を叫んでいた。
アホウ、もとい、麻生を首魁とする政府の糾弾だった。

しっかし、東京の街でデモに遭遇するのは実に久しぶり。
時間に余裕さえあれば、尻尾にくっついていって
どこまでゆくのか確かめたいくらいだった。
アホエモンが”バカばっかりの税金泥棒”とあざ笑ったが
あの手の人格破綻者には言わせておけばよい。
オメエこそ、バカだろがっ!

いずれにしろ、J.C.はデモが好き。
デモ、大いにけっこう。
古今東西、デモは歴史を変えてきた。
体制ををひっくり返すために
これほど有効な手段はほかに少ない。
大衆を合法的に動員するのがデモであり、
個人が法を侵して遂行するのは暗殺。
確かなのはデモは無血が望ましいことだろう。

=つづく=

2019年6月27日木曜日

第2163話 雨の綾瀬は踏んだり蹴ったり (その4)

綾瀬駅改札横の焼き鳥屋「鳥 八代」。
帰宅後、調べてみたら
やはり大手外食産業、トリドールの傘下にあった。
「丸亀製麺」と同じ穴の狢(むじな)であった。

ビールはスーパードライの生。
当店は客の前に配されたウォーマーに
焼き上がった串をスタッフが
次々に並べていくシステム。

客はそれぞれ、出された中から好みの部位を択び、
残った串をスタンドに立てておく。
会計は本数のカウントで成されるため、
串を床に棄てるのは反則。
焼き鳥以外のオーダーは客がメモって手渡す。
近頃、飛ぶ鳥を落とす勢いの「晩杯屋」スタイルだ。

生中をクイッと飲っていると、串が4本並べられた。
もも(塩)とレバ(タレ)が2本づつ。
ウォーマーの真ん中にはタレの容器が設置されている。
=二度づけ禁止=の但し書きとともに—。

ここの串はもも、ねぎま、玉子焼きが大串。
ほかは普通サイズとなっている。
確かにももは大きく、レバは並だ。
火の通し浅いレバが予想をくつがえすほどよかった。

男性二人のツー・オペはてんてこ舞いの大忙し。
持ち帰り客のさばきに手間取るのと、
厚焼き玉子の作成が厄介な様子。
こういう仕事は長時間に渡る重労働のわりに
実入りが少ないと聞き及んでいる。
コンビニ同様、本部ばかりが利益を吸い上げ、
末端の実働者に配分されることはない。

今度は砂肝(塩)とつくね(タレ)の焼き立てが
それぞれ2本運ばれた。
つくねにはしっかりタレが絡んでいるため、
一度づけの必要すらない。
串揚げじゃあるまいし、焼き鳥にタレ壺は無用だろう。

ハツ(塩)を食べたいが忙しく立ち働く二人に
とても声掛けできる状況にない。
何とか中ジョッキのお替わりを通せた。
やれやれ。

子連れママに迎えが来た。
どうやら旦那らしい。
彼は入店せず、母子を連れて立ち去った。
振り向くわけにいかないから、ツラは拝めなかったがネ。

手持無沙汰でめったに口にしない砂肝に手を延ばす。
砂肝をあまり好まぬJ.C.、
文字通り、砂を噛むような思いで味わいやした。

=おしまい=

「鳥 八代」
 東京都足立区綾瀬3-1-32
 03-3690-5170

2019年6月26日水曜日

第2162話 雨の綾瀬は踏んだり蹴ったり (その3)

足立区・綾瀬に降る雨の中をさまよい歩いている。
線路の南側を東に向かって—。
ここで出くわしたのは昭和30年代を彷彿とさせる喫茶店。
コーヒーを飲む習慣のない身につき、
サテンにはまず入らぬが、この店には強く惹かれた。

ガラスのドア越しに店内をのぞけば、
うわ~、いいじゃないの、
懐旧の心揺さぶることはなはだしい。
マスターかな?
初老の男性が接客に励んでいる。

店頭のサンプルケースに見入ると、
おおっ、キリンラガーながらビールがあったヨ。
中瓶が500円だったかな? 値段は忘れた。
ただし、困ったことにドリンクやスイーツばかりで
スパゲッティやピラフなど軽食の類いがまったくない。

サンプルがないだけでメニューには載ってるかもしれないが
何せ、昼めし前の空きっ腹、リスクを犯すわけにはいかない。
よってスルーした。
でも、ここへは近々帰って来るに違いない。
綾瀬に用などなくとも、この空間にしばし身を置いてみたい。

書き忘れたが綾瀬駅南側の地番は西綾瀬1、2丁目。
そこへ楔を打ち込むようにして
駅に接するのが葛飾区・小菅4丁目。
東京拘置所のある、あの小菅である。
ついこの間、カルロス・ゴーンが出て来た拘置所正門は
小菅駅からも綾瀬駅からもほとんど同距離にある。

それはそれとして、たどり着いたのは先述した「鳥 八代」。
双六で言やあ、振り出しに戻っちまったわけだ。
駅に到着後、ゆうに1時間は経過している。
「日高屋」や「ケンタ」はごめん蒙りたいので、もうここしかない。

さんざ歩いたあとだけに座り飲みしたかったけれど、
一画をグループが占拠しており、やけに騒がしそう。
立ち飲みコーナーへ避難する。
先客は3人、オッチャン2人に若めの女性だ。

取りあえずオッチャンの間に割って入って横並び。
ふと脇を見やってビックラこいた。
何と、女性は乳飲み子を抱えてるじゃないか!
赤ん坊胸に立ち飲み酒場はないやろ!
旦那のツラを拝んでやりたいぜ。
それともこの子は父(てて)無し子かや?

=つづく=

2019年6月25日火曜日

第2161話 雨の綾瀬は踏んだり蹴ったり (その2)

東京メトロ千代田線とJR常磐線が連結する綾瀬駅。
改札脇の焼き鳥屋の前で迷っている。
入るべきか、入らぬべきか、それが問題だった。
時刻はまだ15時にならない。
こんな時間に開いてる店はチェーン店以外にない。
お天道様も出てないし、
ここは一つ、御法度の裏街道を歩いてみるか?

と、思ったものの、最後の最後で踏みとどまった。
空腹を抱えながらも先に買い物を済ませて
真っ当な店が開くのを待とう。
そう、それが正しい選択肢だヨ。

歩いて1分、イトーヨーカドーに入館。
何度か利用していても地下の食品フロアばかりで
アパレル関係がまとめて入居する1階は初めてだ。
目当てのスポットが見つからないため、
女店員に訊ねると
「~~はございますがレディースのみで
 メンズのお取り扱いはございません」―だと。
それはないぜ、セニョリータ!
何のために綾瀬くんだりまで来たと思ってんのヨ。

まっ、彼女に罪があるじゃなし、
潔くあきらめるほかに術(すべ)はない。
ランチ難民がショッピング難民ともなり、
一人二役を演ずる破目に陥った。

このままボ~ッと、灯ともし頃を待つのはあまりに無策。
いっそのこと、隣り町の北千住に移動するか―。
あいや待て待て、
せっかく遠征した(そんなに遠くはないけど)綾瀬じゃないか、
何の成果もなく、どうして手ぶらで帰れよう。
わらにすがるのは不本意なれど、
たとえ転んでも何か拾って立ち上がろう。

まなじりを決したJ.C.、篠突く雨に真っ向勝負。
ハハ、われながらバカだねェ。
イヤになっちゃうヨ、まったく。
線路の北側を西の端まで歩いてみても収穫はゼロ。
高架下の飲み屋街にしたって
開いてるのはラーメン店や回転寿司だけ。
あ~あ、ダメだ、こりゃ。

ガードを潜って再び駅の南側へ。
すると帯広名物の豚丼屋を発見。
だけどサ、小サイズでも豚肉5枚乗せだ。
第一、こんな時間に肉満載のどんぶりめしを
食らったひにゃ、晩酌が不味くなること必至。
ここはパス、パス。

おっと、豚丼屋の隣りに居酒屋があった。
通りからちょいと奥まっており、
店内の様子をうかがえないが
どういうセンスか、屋号が「かあちゃん」と来たもんだ。
とても利用する気にゃ、なれんわな。

=つづく=

2019年6月24日月曜日

第2160話 雨の綾瀬は踏んだり蹴ったり (その1)

その朝、目覚めると雨が降っていた。
前日の予報は雨だけでなく風も強まりそう。
仕方なく理髪の予約を先送りする。
こういう日はたとえ外出しても
あまり歩かずに済む予定を組むのが賢明。
よってショッピングにいそしむことにした。

カタログを見て気に入ったシャツのメーカーが
足立区・綾瀬のイトーヨーカドーに
コーナーを設けているとあって行く先を綾瀬に決める。
さすれば、遅い昼食を大好きな「綾瀬飯店」でいただこう。
記憶が確かなら当店は中休みナシか
あったとしても15時くらいまでランチ営業を続けているハズ。
決断すると気持ちがウキウキしてきた。
雨の日のウキウキは貴重である。

JR常磐線直通・我孫子行きの電車を降りたのは14時半。
東側の改札を右に出ると、
高架下の大衆中華が焼き鳥屋に取って変わられている。
聞き覚えのない店名ではあるものの、
利便のいい場所に開店するくらいだから
大手のチェーンと思われた。
いずれにしろ、大家はJR東日本か東京メトロだろう。

雨足の強い中、駅から3分の距離を急ぎ足。
到着すると何てこったい、
臨時休業の札がぶら下がってるじゃないのっ!
いや、マイッたな。
代替のアイデアとてなく、いきなりランチ難民の身となった。

「綾瀬飯店」の周辺にこれといった店舗はない。
すごすごと今来た道を駅に戻る破目に—。
先ほど見掛けた焼き鳥屋は「鳥 八代(はちだい)」。
しばし店頭にたたずんで思案投げ首である。

テイクアウト・コーナーには焼き鳥の串々、
唐揚げの数々、もも&胸の半身揚げまで居並んでいる。
中をのぞくと真ん中に焼き場がデ~ン!
周りを生ビールのタップだの、
フライヤーだの、洗い場だのが取り囲む。

左手のカウンターは立ち飲みコーナー、
右手のカウンター越しに座り飲みスペースが設置されている。
立ち飲み客は2人だけだが5名も立てばいっぱいだろう。
座り飲みは8人ほどでほぼ満席状態だ。

はて、どうしたものかなァ。
ランチの予定がいきなり晩酌じゃ、
お天道様に申しわけが立たないしねェ。
おっとっと、今日は朝から雨でした。

=つづく=

2019年6月21日金曜日

第2159話 日本そば屋のもつ煮込み

ピンクの白鳥たちとおさらばし、池畔を西に出た。
この辺りの地番は池之端で
なんとも趣きのあるネーミングだ。
東京メトロ千代田線・根津駅に近いため、
谷根千の一画ととらえても一向に差し支えない。
ちなみに上野動物園の最寄り駅は根津。
正門のある東園へはJR上野駅が近くとも
こちらには西園が池之端門を備えているからネ。

半刻前、京成上野駅から歩き始めた際、
すでに今宵のターゲットは決まっていた。
かつて毎週のように通った「新ふじ」は
いかにも町のそば屋といったふうで
身も心もリラックスできる。

居酒屋には恵まれない谷根千ながら
日本そばとなれば、粒揃いの土地柄。
「夢想庵」、「鷹匠」、「三里」、「よし房 凛」、
「やなか」、「蕎心」と佳店の枚挙にいとまがない。

中でもJ.C.が慈しむのは真っ先に「新ふじ」。
気取りのないたたずまい、
過不足ない品書きの取り揃えと味、
控えめな価格設定、
付かず離れずの距離感を保つ接客、
どこをとってもまったく穴がない。
好きだ。

引き戸を引くと、客入りは7割程度。
店の一番奥にある2人掛けのテーブルに着く。
いつものようにスーパードライの大瓶を―。
そしてこちらもいつも通りにもつ煮込み。
当店のつまみのイチ推しはコレである。

豚の白もつが合わせ味噌でコックリと煮込まれている。
味に深みを与えるのは三州・岡崎の八丁味噌。
たっぷりのもつに豆腐がよいアクセントとなる。
もつ煮込みに、豆腐・こんにゃく・大根・にんじんなどは
邪道と決めつける向きも少なくないが
J.C.はあまりこだわらない。

むしろ豆腐はありがたく、絶好の箸休めになってくれる。
こんにゃくも食感に変化をもたらして楽しい。
大根はOKだが、にんじんはちょっとなァ・・・
なんて思わないでもないけれど、
江戸川区・小岩の「大竹」なんぞ、じゃが芋入りだからネ。

久々の煮込みを深く味わった。
先を急ぐこの日は冷酒をスルーして、すぐにもりそば。
おや? そばは透明感を増し、コシもかなり強まった。
心なしか、つゆの甘みまで抑制されたように思われる。
いずれにしても1909年創業の大老舗、
1世紀を超えて商売を続けていれば、
多少は時世の流れに沿うことも必要でありましょう。

「新ふじ」
 東京都台東区池之端2-8-4
 03-3821-3913

2019年6月20日木曜日

第2158話 水鳥のあと 濁すモノあり

東京の東、江戸川の向こうで所用を終え、
帰って来たのは京成上野駅。
陽は西に傾いて絶好の晩酌どきであった。
ただし、この日は予定があって早めに帰宅せねばならない。

さァ、どこへ行こうか?
手っ取り早く、目の前の広小路、いや、湯島界隈にするか―。
と、思いながら向かったのは弁財天方面。
そう、不忍池だった。

せっかくだから飲み出す前に池畔を歩こう。
短い天龍橋を渡らず、
したがって弁天さまにお参りもせず、
緑の蓮に埋めつくされた蓮池のほとりを歩む。

不忍池は3つに分かれており、
北から鵜の池、ボート池、蓮池となる。
なじみ深いのはボート池。
障害物がなく、見晴らしがよいためだ。
鵜の池は動物園に入園しないと、池畔を歩くことができない。

蓮池をグルリめぐってボート池にやって来た。
池を臨むベンチには幸せそうなカップル、
孤独な老人、一憩する外国人旅行者など、さまざまな人々。
それぞれに、笑顔で語らい、深くうつむき、
ひたすら水面を見つめている。

このときJ.C.が探しもとめていたのは水鳥の姿。
ところが、みな北に帰ってしまい、
常駐しているハズのカルガモすら見当たらない。
代わりにバカデカい白鳥が群れてるじゃないか―。

それもけばけばしいピンクのヤツがネ。
そう、ペダルで漕ぐタイプのスワンボートである。
景観を損なうことはなはだしく、
水鳥去りしあとの池を濁らせているのだ。

ふと気がつくと、手漕ぎのボートが皆無。
動物園のせいで子どもたちが集まる一帯だから
家族連れは仕方ないとしても恋人同士でスワンはないやろ。
いい若いモンがペダルをペタペタ踏んでるようじゃ、
この国の未来は暗いネ。
スマフォばっかりやって本を読まない、
こういう連中がアホ政権、もとい、
安倍政権を支えてるんだから国の未来は真っ暗だネ。

上野のボート池なら、あざ笑って済ませることもできよう。
これを九段の千鳥ヶ淵でやったら世も末。
おそれおおくも天皇陛下、上皇さまはお許しになるまい。
世の若い男たちよ、ボートは手で漕ぎなさい!
そして若い娘たちよ、
恋人乗せてボートも漕げない男とは即刻、別れなさい!

2019年6月19日水曜日

第2157話 焼いて食えるな ホロホロ鳥は (その6)

そうしてこうして
いよいよ、ホロホロ鳥が3皿ド~ンと卓上に—。
ここで思い当ることがあった。

この家禽(もはや野鳥ではない)を
最後に食べたのは仏料理店だろうが
いつ、どこでだったかトンと覚えていない。
しかし、初めて食したときのことは鮮明に記憶している。

ときは1975年、店は有楽町のふぐ料理屋「大雅」だ。
この年の8月末、英国・ロンドンから帰朝したJ.C.、
9月半ばには早くも職に就き、
人生最初のサラリーマンとして
毎朝、タイを締める身分となった。

勤務先が有楽町だったため、たびたび「大雅」を利用したが
ここにホロホロ鳥が居たのだった。
タタキや唐揚げのランチが500円ほどだったかな?
値段はよく覚えちゃいない。

残念ながらすでに閉業した様子で
在った場所にはモダンな高級ホテルが建っている。
ためしに電話してみたら
「この電話は現在使われておりません」―
移転営業もしてないんだネ。

それはそれとして「NOBI」のファラオーナ(ファラオの鳥)。
1羽丸ごとのローストではなく、もも肉と聞いていたので
コンフィを想像していたら、案の定だった。
1人当たり半本だけど、いろいろ食べ継いだからじゅうぶんだ。

ナイフを入れると、ホロホロ鳥だけにホロホロと崩れた。
まっ、鴨にせよ鶏にせよ鵞鳥(ガチョウ)にせよ、
コンフィにすれば、ファイバーが立ってホロホロになるんだがネ。
コンフィはいわゆる脂焼き。
低温でじっくり熱を通して調理する。
仏語のコンフィル(保存する)に由来する名称の通りに
長期保存が利く料理だ。
コンフィテュール(ジャム)もここから来ている。

肝心のお味はというと、これはこれで美味しいものの、
別段、コンフィにホロホロ鳥を使わなくても・・・
そんな印象だった。
言われなければ、誰もが鶏肉と思うだろう。
やはりホロホロ鳥はローストやフリカッセ。
食材の個性が発揮され、より美味となろう。
変化球で参鶏湯なんか、いいかもしれない。

通常、このあとドルチェとエスプレッソ、
あるいは食後酒に移行するところながら
スイーツ好きの女性陣ですら、それを求める声を上げない。
まったくもって、野郎どもみたいな女郎衆である。
会計は1人1万円と少々、お値打ちといえましょう。

夜はまだ浅い。
今宵のメンバーはみんな歌好き。
なかにはアンチエイジングの一手段として
カラオケを愛好する者までいるくらいだ。
歩いて1分足らず、行きつけのスナックに移動する。
大人数での到来に、ママがビックラこいていたわいな。

=おしまい=

「NOBI」
 東京都文京区千駄木3-42-8
 03-5834-7654

2019年6月18日火曜日

第2156話 焼いて食えるな ホロホロ鳥は (その5)

ワァワァ、ワァワァと、口々に言葉を発しながら
食べ終えたアンティパスティの数々。
仲間の顔を見くらべて健康の大切さを
あらためて思い知るJ.C.であった。
愛だの恋だの、金だの名誉だの権力だのは
みな健康あっての物種に過ぎない。

晩餐は速やかに進んでプリミに突入。
シェフとの約束で3種類に絞る手筈となっている。
ここで5名の仲間たちにメニューの回覧板。
各自1品、これぞというモノを択んでもらい、
そこから3種をJ.C.が決めるということに―。

集めたリクエストはかくの如し。

① ホタルイカのアンチョヴィ パン粉掛け
  (竹炭入りタリオリーニ)
② 伊産トリュフとじゃが芋のクリームソース
  (コルツェッティ)
③ 鴨と九条ねぎ 蕗味噌クリームソース
  (テスタローリ)
④ オマール海老とズッキーニのクロスターチソース
  (タリアテッレ)
⑤ そら豆のゴルゴンゾーラソース
  (そら豆のニョッキ)

5人が5人ともバラバラじゃないか!

パスタはすべて自家製の手打ちである。
選抜したのは④と⑤、そしてもう1品は
自分の好みを無断で優先させてもらい、
イノシシのラグーソース(パッパルデッレ)を—。
おのおの2人前づつあるから、
6人で分けると、1人当たり3種合計で1人前となる。

ここで赤ワインの登場。
条件はほどほどの値付けのネッビオーロだったが
何と、バローロがサーヴされた。
有力な造り手ではあるまいけれど、
あえてボトルのチェックなどしない。
ちょっとイヤらしいからネ。

パスタで印象深かったのは
そら豆本体に加え、そら豆のカタチに整えたニュッキ。
豆とニョッキが酷似してちょっと見、区別がつかない。
こりゃ、シェフも考えやしたネ。

そして自分で択んだから言うんじゃないが
イノシシの肉片がゴロゴロ入ったパッパルデッレは
パンチ力があり、バローロと二人三脚で歩き始める。
何だかオマールのタリアテッレがかすんじまったぜ。

=つづく=

2019年6月17日月曜日

第2155話 焼いて食えるな ホロホロ鳥は (その4)

18時きっかりに6人のメンバーが勢揃いした「NOBI」。
各自、自己紹介もそこそこに
イタリアビールのモレッティの生やらスプマンテやらで
今宵の宴、楽しからんことを祈って乾杯。

真っ先に運ばれたのは生ハム類の盛合せ。
フレンチでいうところのシャルキュトリーですな。
プロシュートはもとより、コッパやモルタデッラ、
イノシシの生ハムまであった。

白ワインはコルテーゼ種をお願いしたのだが
抜栓されたのはガヴィ・ディ・ガヴィ。
文句の出る道理がない。

続いての料理は新玉ねぎのムース。
塩気はやや強めながら
新玉の甘みが閉じ込められている。
プリンのようにガラスの容器に詰められ、
冷して供される佳品だった。

その上をいったのが鳥レバーのパテ w/バゲット。
肌理(きめ)細かく、なめらかにして
これならわざわざフォワグラを頼むこたあないやネ。
フロア担当の女性(見事な接客ぶり)によれば、
白レバー(脂肝)を使用しているとのこと。
さっすが~!

この店の近く、さっき通ってきた夕焼けだんだんの上に
「花家」なる軽食&喫茶の店があるが
そこでは偽りの豚白レバーを使った、
ニラレバを食わされたっけ・・・。
段上の敵を段下で討った気分は爽快なり。

お次はベラ・ロディ ラスパドゥーラ。
ロンバルディ州はミラノ近郊のロディなる町で作られる、
べラ・ロディというフォルマッジォを
専用のナイフで薄く薄くスライス。
あたかも削り節のようにふんわりと盛り付けるのが
ラスパドゥーラ・スタイルだ。
初めて食べた印象は小さな衝撃。
このチーズは巷にもっと普及し、愛されるてしかるべき。

そして鮮魚のカルパッチョ。
魚種はイナダだった。
ワカシ→イナダ→ワラサ→ブリ
いわゆる出世魚ブリの若魚のこと。
ちなみにワカシより若いのを
ワカナゴと呼ぶようだが、あまり一般的ではない。

鳥取産とあったので第一感は境港ながら
隣接する米子市や県庁所在地の鳥取市にも
多くの漁港を擁する鳥取県のこと、特定はできない。
正直言うと、J.C.は青背のサカナの生は好まない。
カルパッチョでも和食の刺身でもそれは変わらない。
殊にカルパッチョには白身のサカナを使ってほしい。
食べ付けないイタリア人の中には
青背に手をつけぬ者も出てくるだろう。

それでもなお、日本のイタリア料理店で
青背が重用されるのは仕入れ価格が安いから―。
生食用のヒラメやカレイはバカ高いもの。
鮨屋じゃないから仕方ないんだヨ。

=つづく=

2019年6月14日金曜日

第2154話 焼いて食えるな ほろほろ鳥は (その3)

文京区・千駄木のトラットリア「NOBI」。
何とかコース料理を回避するために電話で交渉中だ。
応対してくれている女性スタッフにしてみれば
面倒臭い客、この上なかろう。

相手が男性に変わった。
シェフである。
5分ほどの会話でまとまった妥協案は以下の通り。

・ 予約は開店と同時の18時
・ アンティパスティ(前菜)は盛合せ中心
・ プリミのパスタ類は3種までに抑える
・ セコンディの主菜は1種を3皿
・ 白ワインはピエモンテのコルテーゼ種を1本
・ 赤ワインはピエモンテのネッビオーロ種を2本

6人が6人、てんでんばらばらに注文したひにゃ、
厨房はたまったもんじゃないからネ。
主菜は牛・豚・鳥以外の何か変わったモノをと
お願いした結果、ホロホロ鳥に決定した次第なり。

当日、三河島・日暮里界隈を独り徘徊したのち、
夕焼けだんだんを下り、谷中銀座からよみせ通りを経て
店の前に到着したのは17時半過ぎであった。
ドアには =CLOSED= の札が掛けられている。

ここは無条件で目の前の「サクラカフェ」へ。
冷蔵ケースには世界各国のビールが冷えている。
少々、迷った末にフランス産クローネンブルグの小瓶を―。
1664年、アルザスはストラスブールのクロナンブール地区に
誕生したブルワリーによるフランス随一のビールだ。

自分で択べるグラスは
ちょいと気取ってステム(柄)付きにしてみた。
厚手のワイングラスみたいなヤツである。
入口に近い、「NOBI」がよく見えるテーブルに着いた。

手酌でゆるり味わいながら時の流れに身をまかせる。
エッ? またかヨ!
ダイジョビ、ダイジョビ、
テレサ・テンにはご登場願わないから―。

17時55分。
店は開いて外にメニューが掲げられた。
ほとんど同時に、まず半チャンとトレーナーが入店。
その2分後、スナッキーズの娘(?)たちが3人揃って到着。
おう、おう、みなさん、時間にゃ正確だこと。
さすれば、J.C.、
おもむろに残りのビールを飲み干し、あとを追ったのでした。

=つづく=

「サクラカフェ 日暮里」
 東京都文京区千駄木3-43-15 サクラホテル1F
 050-5594-2932

2019年6月13日木曜日

第2153話 焼いて食えるな ホロホロ鳥は (その2)

長年、気になっていた”ほろほろ鳥問題”を
自分なりに解決して胸のつかえがとれた。
考えてみりゃ、鳩の鳴き声が
ほろほろと聴こえないこともないし、
”ほろほろ”は鳴き声や鳴く様子を
形容したものと解釈したい。

てなこって、今話の主役はホロホロ鳥。
歌の文句と関係ないほう、
西アフリカはギニア原産のホロホロチョウである。
フランス料理で珍重されるこの鳥の仏名はパンタード。
伊語ならファラオーナだが
未だかつてリストランテで食べていないし、
見掛けたことすらない。

ことの経緯はこうである。
年に何度か集まっちゃ、
飲んで食べて歌うスナッキー・レディースと、
つい先日、旧交を温めた半チャン・フロム・マニラに
彼のピラティスの女性トレーナー、
計6人が一同に会する運びとなった。

たまにはジョイント・ディナーもよかろうもん。
そう思って企画したワケだ。
トレーナーとは初対面ながら
ニューヨークに棲む共通の友人があり、
ハナシは合うし、話題にも事欠かない。

例によって店選びに取り掛かり、
最初に抑えたのは
上野広小路にあるとんかつ屋の座敷。
川島雄三がメガフォンをとった東宝映画、
「喜劇 とんかつ一代」(1963年)のモデルとなり、
舞台(実際にロケ)ともなった老舗である。

ここを諸事情からキャンセルせざるをえなくなり、
代替として択んだのは千駄木のトラットリアだった。
名前は「NOBI」。
数年前にオープンした新店は今回が初訪問だ。

ただし、真向かいにある「サクラカフェ」では
ちょくちょくビールを飲むから、
出入りする客層や盛況ぶりはつぶさに観察していた。
地元での評判も聞き及んでいる。

電話で予約を入れると、
受話器を取った女性スタッフ曰く、
週末で6名ともなれば、速やかに対応するためには
コース料理が望ましいとのこと。

客が自らメニューを組み立てるアラカルトにこそ、
食べる歓びを見い出せるJ.C.は
ここで引き下がるわけにはいかない。
よって、一計を案じてみた。

=つづく=

2019年6月12日水曜日

第2152話 焼いて食えるな ホロホロ鳥は (その1)

♪   花も嵐も 踏み越えて
  行くが男の 生きる道
  泣いてくれるな ほろほろ鳥よ
  月の比叡を 独り行く   ♪
   (作詞:西條八十)

霧島昇&ミス・コロンビアが歌った「旅の夜風」は
1938年9月のリリースで歌詞はその1番。
同年製作の松竹映画「愛染かつら」の主題歌として
日本全国津々浦々に流れ、空前の大ヒットとなった。

この数ヶ月前、拡大した日中戦争を理由に
東京五輪の開催権が返上されている。
世界大戦前夜の欧州諸国も
オリンピックどころではない状況下にあった。

歌詞にある、ほろほろ鳥(どり)とは
いったい何者であろうか?
アフリカ原産(ギニア地方)の
ホロホロチョウ(英名ギニーファウル)ではあるまい。

調べてみたらヤマドリだった。
あまり鳴かない鳥で
オスによる求愛は羽根をバタバタさせるドラミング。
このドラミングをほろ打ちと呼ぶそうな。

写真で見るヤマドリはキジとニワトリのハーフの如し。
恋愛映画の主題歌には
およそ似つかわしくない姿カタチをしており、
違和感がつきまとう。

ここで、とある曲に思いがいたった。
エッ? またかヨ!
なんて気色(けしき)ばまずにご覧下され。

♪   ひとりの旅の 淋しさは
  知っていたのさ 初めから
  はぐれ小鳩か 白樺の
  梢に一羽 ほろほろと
  泣いて涙で 誰を呼ぶ  ♪
   (作詞:宮川哲夫)

1960年に発表された、
松島アキラが歌う「湖愁」の2番だ。

これなら胸にストンと落ちるじゃないか。
役者にしたって山鳥より、
はぐれ小鳩のほうがよほどいい。
哀愁をたたえて美しい。
あ~、スッキリした。

=つづく=

2019年6月11日火曜日

第2151話 「な兵衛」は「なへい」に非ず (その2)

千葉県松戸市・本町の居酒屋、というか、
郷土料理店の趣き漂う「な兵衛」。
そのカウンターで越後のっぺを味わっている。
店内にはゆるゆると時が流れていた。
かなり昔のことながら
豊島区・池袋の新潟料理屋で
のっぺを肴に酒を飲んだ記憶がある。

そういえば、はるか40年前、佐渡へ渡る際、
新潟港に近い料理屋で食した、のっぺを思い出す。
これがのっぺとの初めての出会いで
赤ひげの塩辛とわっぱ飯もいただいた。

赤ひげは南蛮海老(甘海老)だが
普段、われわれが食する甘海老とは異なるようだ。
正しくはアキアミといい、
オキアミのようにアミの一種ではなく、
桜海老に近い、れっきとした海老の仲間である。

海老団子が運ばれた。
やや大きめの団子に獅子唐、そしてレモン。
別添えでケチャップ主体のソースも。
熱いところをハフハフといけば、
店の名物だけにまずまずの仕上がりだった。

ただし、これにはレモンだけでじゅうぶん。
ソースを使うと、たこ焼き風の下世話な味わいになる。
まっ、たこ焼きも嫌いではないし、
舌先に変化が生まれて楽しいかもしれない。

燗酒に移行した。
訊きそびれたので銘柄は判らない。
たぶん新潟の普及品らしいがインパクトに乏しい。

品書きを再度、吟味していると、
先刻「関やど」の締めに食べたそばが
ボディブローのように効いてきた。
血糖の回った脳から胃へ指令の到達。
さらなる食物の摂取を控えよ!

店主の仕事ぶりは拝見したたものの、
常連の応対に忙しく、とても言葉など掛けられない。
会計時、女将サンに確かめてみた。
「お店の名前は”なへい”さんですか?」
「いいえ、正しくは”なひょうえ”なんですヨ」

いや、この違いは実に大きい。
武士がエラいわけじゃないが
”なひょうえ”と”なへい”では
響きに武士と町人ほどの差が出てしまう。
もともと兵衛は武官のこと、酒場で兵衛とはネ。
いずれにせよ、松戸に来たらもう一度、
じっくり飲み直してみたい佳店でありました。

「な兵衛」
 千葉県松戸市本町3-10
 047-362-3400 

2019年6月10日月曜日

第2150話 「な兵衛」は「なへい」に非ず (その1)

締めのそばは要らなかったかも?
なあんて思いながらも
心を寄せるそば屋に10年ぶりでやって来て
そばを食わずに退店することなどできっこない。
そうだヨ、これでよかったのサ。

向かいの「な兵衛」に惹かれたわけは
ガラス戸越しに垣間見た店主の面貌と立ち居振る舞い。
常連客と談笑しながら注文をさばいてゆく姿に
言っちゃ悪いが、そこいらの下卑た料理人にはない、
控えめな品格を感じた。

「カウンター、テーブル、お好きなところへどうぞ」―
女将に迎えられ、当然のようにカウンターへ。
この店主の仕事ぶりを間近に見ておきたいからネ。
まっ、どんなときでも、どんな店でも
カウンターがあれば、テーブル席に着くことはない。
これもせいぜい3人までで、ときどき4人もあるが
その際はカドとカド、2:2のポジションに限られる。

とまれ、当方サッポロ黒ラベルの大瓶、
相方レモンサワーでこの日、二度目の乾杯。
突き出しは竹輪とこんにゃくの煮つけだ。
品書きからは越後の色が読み取れた。

当店の三大名物は
海老団子・牛肉豆腐・田舎ぞうすい。
中から海老団子をお願いする。
それに越後のっぺを—。

のっぺは日本各地にある、のっぺい汁の新潟版。
けんちん汁によく似ており、
宿坊で生まれた精進料理であるところも共通している。
他県では野菜中心の具材を胡麻油で炒めてから
煮込むことが多いが越後では、そのプロセスを省くそうだ。

のっぺに使われていたのは
里芋・にんじん・しいたけ・しめじ・こんにゃく、
加えて、打豆(うちまめ)である。
打豆とは大豆を臼と木槌で打ちつぶし、乾燥させた保存食。
つぶすことによって早く乾燥し、
熱の伝導もよくなって調理時間の短縮につながる。
主に日本海沿岸で作られており、中心は福井県だという。

なるほど、素朴な味がする。
ときとして、けんちん汁からは都会的な洗練を感じるが
のっぺい汁はより素朴で田舎風。
澄んだ汁のけんちんに対し、
のっぺいは片栗粉による濁りが生じるせいだろう。

=つづく=

2019年6月7日金曜日

第2149話 ここは「関やど」松戸のそば屋 (その2)

実に実に、きっかり10年ぶりの「関やど」。
相方は3年前に来ているという。
(お主もなかなかやるものよのぉ)
腹のうちでつぶやいて店内を見回した。

おや? 
小上がりが椅子席に変わっちゃってるヨ。
厨房の位置も全然違う。
先代の女将の姿が見えず、
接客は当代の女将、おそらく店主の奥方だろう。
訊ねると、数年前にリノヴェイトしたとのこと。
訪れれば、あの小上がりでくつろぐのが常だった。
この日もそのつもりでいただけに、ちと残念。

ビールはキリンラガーのみにつき、大瓶1本を分け合う。
突き出しは今も変わらぬそば味噌だ。
つまみは、あい焼き(合鴨&長ねぎ)とにしん棒煮。
それぞれの好みを1品づつ通す。
はたしてどちらも水準に達していた。

菊正宗の樽酒に切り替えた。
自宅の冷蔵庫には1合入りのワンカップが2、3個、
ビールの隣りで眠っているにも関わらず。
近頃は樽酒を注文する機会が増えた。
ハマるというほどではないにせよ、あの杉の香りが好きだ。

天種を追加する。
俗にいうかき揚げは芝海老と小柱の二者択一。
ここは一番、小柱を選択した。
小柱は青柳(バカ貝)の貝柱のこと。
帆立の柱を小分けにして代用する店を見受けるが
味はともかく、見た目はちょいとばかり無粋な印象。
小柱のほうがずっと粋である。

合鴨・にしん・小柱の三本柱のおかげで樽酒が進みに進む。
池波正太郎翁が大見得を切った、
「酒を飲まぬくらいなら、そば屋には入らぬ」―
けだし名言なり。

酒が飲めない人は可哀相、なんて言葉をよく耳にするが
ご本人たちはちっとも哀しくなんかないのであって、
むしろ、大きなお世話と、
苦々しい思いをされているんだろう。

でもネ、言い出しっぺが誰だか知らんけど、
とある都々逸が脳裏をよぎるんですワ。

酒も煙草も女もやらず 百まで生きた馬鹿がいる

まっ、賛否ございやしょうが、実に言い得て妙ざんす。

せいろ、おかめそばを一つづつ取って締めとした。
さあ、これからお向かいに移動の巻である。

「関やど」
 千葉県松戸市本町7-2
 047-361-0235

2019年6月6日木曜日

第2148話 ここは「関やど」松戸のそば屋 (その1)

♪   旅空夜空で いまさら知った
  女の胸の 底の底
  ここは関宿 大利根川の
  人にかくして 流す花
  だってヨー あの娘川しも 潮来笠 ♪
     (作詞:佐伯孝夫)

ご存じ橋幸夫のデビュー曲、
「潮来笠」が日本中に流れたのは1960年。
歌詞はその3番で、舞台は関宿だ。
関宿は千葉県最北端に位置し、
利根川と江戸川の分岐点にあり、
茨城県と埼玉県の県境に鋭く打ち込まれた、
楔(くさび)のように存在している。

旧関宿藩の城下町は水運に恵まれ、
大いに栄えたものの、近世に入ってから衰退の一途。
今となっては往時の栄華を偲ぶよすがとてない。
「潮来笠」に謳われた時代に訪れたかったものだ。

てなこって、今話の主役は「関やど」。
いえ、その旧城下町ではなくって
千葉県・松戸市の日本そば屋である。
新京成線で松戸から1駅の上本郷に7年ほど棲んだため、
かつては「関やど」を利用すること度々、
思い出深い店舗なのである。

あまりガラのよくない土地柄に
不似合いなほど風雅なたたずまいを見せるそば処は
松戸市民の誇りと言っても過言ではない。
もっともほとんどの人が自覚してないがネ。

JR常磐線・松戸駅に降りたのは晩酌にまだ少々早い時間。
店は通し営業で開いているものの、
相方との待合せに余裕があった。
よって旧松戸宿界隈を歩く。
松戸神社や平潟遊郭の跡地は
気まぐれな散歩者の興をそそって余りある。
小半刻を過ごして駅に戻った。

こちらもまた「関やど」を熟知しており、
しきりに懐かしむ相方と向かう道すがら、
あれっ! こんなところにこんな飲み屋があったっけ?
「な兵衛」なる、珍妙な店名の居酒屋を見つけた。

「関やど」のほぼはす向かいなのに
今までまったく気づかなかったのは、なぜ?
しばし立ち止まり、気配をうかがううち、
これは佳店に相違ないと確信。
そば屋の帰りの立ち寄りを決断した瞬間だった。

=つづく= 

2019年6月5日水曜日

第2147話 ブイヤベースとエスカベッシュ

越乃寒梅と時鮭のポテトフライをやったあと、
もはやこの場所に用はないとばかりに階下へ。
どこか近場でもう1杯、と思ったものの、瞬時に心変わり。
どうせ乗りかかった船、吉池グループ3連弾と行こう。
1階の鮮魚売り場に立ち寄ることに―。
前回、Y美嬢と買い出ししたケースと一緒だネ。

建て替え後、コンパクトになったフロアは
一巡りしてもさして時間が掛からない。
それでも入念にチャックして買い求めたのは以下4点。

刺身用きじはた四半身
真ごち丸1尾
小鮎1パック
活あさり1パック

即刻、帰宅して調理にかかり、作り上げたのは
きじはた・こちの刺身と小鮎の天ぷらだ。
これでビールと冷酒を飲った。

こちは大量なので残り四半身を昆布〆にし、
さらに半身のブツ切りをブイヤベース用に—。
小鮎天の半分はエスカベッシュに転用する腹積もり。

翌日。
こちのアラとあさりで取ったスープでブイヤベースを。
具材も同じくこちとあさりだけで甲殻類はナシだ。
あとはサフラン、ブーケガルニ、
ニンニク、玉ねぎ、セロリ、白ワイン。

鮎のエスカベッシュ、いわゆる南蛮漬けは
イタリアンならカルピオーネだネ。
ここには玉ねぎ、にんじん、ピーマンにも
一役買ってもらった。

酒は北イタリア・ピエモンテの白、ガヴィ。
卓上にはバゲットと発酵バターの用意もある。
エスカベッシュの鮎は和歌山産だから
養殖モノに間違いない。
市場に出回る琵琶湖産の稚鮎より一回り大きい。
豆あじを使う南蛮漬けも好きだが
そこは腐っても鯛ならぬ鮎、ワタの苦み鮮烈にして
頭と背骨柔らかく、あじより繊細な旨みを感じた。

アイオリ(ニンニクマヨネース)をあえて添えぬ、
ブイヤベースはあっさりと仕上げた。
スープにしたって本格的なものはビスクに近いが
これはほとんどコンソメだ。

日本における魚介類の年間消費量が
過去最低にまで落ち込んでいるらしい。
わが身を振り返ると、
魚&肉の消費レイシオは7:3、いや、8:2だろう。

若い頃、あれほどよく食べた焼肉ですら
またぎ始めて久しい食生活を送り続けている。
DHAとEPAの恩恵を満身に受け、
風邪一つひかず、これ以上ないくらい極めて健康なり。

2019年6月4日火曜日

第2146話 幻魚はやはりマボロシだった (その4)

御徒町のガード下、「味の笛」の2階にいる。
越後のわらびおひたしを注文すると、
「かつお節かけます?」と訊かれ、
「お願いします」と応えた。

時刻はそろそろ16時半。
つまみを取ったことだし、生ビールをもう1杯。
何となれば「味の笛」の生はスーパードライなのに
「吉池食堂」はキリン一番搾りだからネ。

わらびはなかなかの味わい。
アクが抜け切って舌ざわりもネットリとやさしく、
袋詰めの水煮とは別物だ。

そうして乗り込んだ吉池ビル最上階。
落ち着いたのは焼き処コーナーのカウンター。
まずは越乃寒梅の冷たいのを。
同時にげんげの一夜干しも。
すると注文を取ったオジさんが焼き場のスタッフに叫んだ。
「げんげありますかァ?」
問われたほうは無言で首を横に振るばかり。

「どうも入荷が無いみたいです」
(マンマ・ミーア!)
口には出さないが、疲れがドッときた。
何のための再訪だか知れたものではない。

すぐに気持ちを切り替えて
「刺身や鮨のわさびは本わさび?」
「いえ、本わさびじゃありません」
此度は即答。
これで生モノの線は消えた。
「じゃ、先にお酒ください」

追って通したのは当店のオリジナル、時鮭のポテトフライ。
この一品はポテトサラダを薄切りの生鮭で巻き、
パン粉を付けて揚げたもの。
かっぱ巻のように包丁を入れられ、
切り口が上を向いて現れた。

一切れつまんで、まあ、何と申しましょうか。
アイデアは悪くないんだけど、
早いハナシがサーモンフライに
ポテサラを添えるだけでいいんじゃないの?

かつて下魚の下魚だったげんげ。
それが近頃、珍味の幻魚として注目されるようになった。
とはいってもトドのつまり、幻魚はマボロシに終わった。
再々訪する気力も湧いてこない。
サカナだけに気が向くまで、しばらく泳がしといてやろう。

=おしまい=

「味の笛 本店」
 東京都台東区上野5-27-5
 03-3837-5828

「吉池食堂」
 東京都台東区上野3-27-12
 御徒町吉池本店ビル9階
 03-3836-0445

2019年6月3日月曜日

第2145話 幻魚はやはりマボロシだった (その3)

サカナのデパート「吉池」でY美嬢とフィッシュ・ショッピング。
先ほどの食事中、
相談を受けながら決めた彼女の今宵の献立は

白身魚のカルパッチョ
海の幸のフリット・ミスト(ミックスフライ)
リングイネ・ヴォンゴレ・ロッソ
白身魚のアクア・パッツァ
(ドルチェは省く)

というもの。
ディナーの主賓は旦那の母上、
姑(しゅうとめ)にほかならない。
こりゃ、ハズせんわな。
何でも敵は肉類がイケないそうで
サカナ一色にならざるをえなかったという。

J.C.の提案により、主菜のアクア・パッツァを
広東料理の清蒸鮮魚に変更した。
還暦超えの日本女性に
イタリアンづくしは重かろうと推測し、
なおかつ、締めには白飯が無難と考えたわけだ。
清蒸の残ったソースはご飯にピッタンコだからネ。

結局、Y美嬢が購入したのは
平目・槍いか・真だこ・小海老・小はまぐり・あずきはた。
こちらとしては彼女の健闘による、
調理の成功を祈るほかはない。

翌日、届いたメールには大成功とあった。
とりわけ、あずきはたの清蒸が好評だったとのこと。
めでたし。

後日、再びJR御徒町駅改札を出る、
J.C.の姿を見ることができた。
狙いは幻魚・ゲンゲである。
どうにも気になって捨ておくこと能わず。
リベンジに及んだ次第なり。

時刻は16時ちょい前。
「吉池食堂」の晩酌メニューが始まる16時半には
まだ若干の余裕があった。
さすれば、向かうは吉池直営の「味の笛」以外にない。

幸いにも2階の椅子席を無事確保。
さっそく工場直送、スーパードライの生をプラコップで—。
あれれ、いつの間にか250円が
280円に値上がってるじゃないか!
いいでしょう、いいいでしょう、
そもそも250円が安過ぎなんだヨ。
J.C.は許す、赦す、笑ってユルす。

一気に1杯飲み干して、つまみ類並ぶカウンターに戻る。
手に取ったのは越後松之山産わらびのおひたしだった。

=つづく=