2019年9月9日月曜日

第2215話 アメリカ橋のたもと (その1)

不動前で理髪を済ませ、
向かったのは恵比寿ガーデンプレースだ。
目当ては当然、生ビール。
暑いさなかの山手通りを歩いて行った。
直射日光を避け、日陰を進む。

清掃工場入口の信号を右折。
清掃工場ってのは、精巣工場の次くらいに大事だが
交差点の表示にふさわしいとは思えない。
北東に延びる坂道には新茶屋坂なるシャレた名前がある。
ここは新茶屋坂下でいいじゃないか。
誰が名付けたのか、センスがなさ過ぎだ。

ゆるやかな上り坂は緑したたる並木道。
のっぺりした木肌はけやきだろう。
落ちてくる蝉時雨はミ~ン、ミンミン、ミンミ~ン。
紛れもないミンミンゼミに
ときおりジージーとアブラゼミが入り混じり、
混声合唱の態を成している

恵比寿南橋(アメリカ橋 )を渡り、
サッポロビール直営の「ビヤステーション 恵比寿」へ。
館内は満席で順番待ちが10名以上。
それも不思議と老人ばかりだ。
しかも爺さんより婆さんが多い。
近頃、老女のあいだに生麦酒ブームが到来したのかな?

半ばあきらめて中庭に出てみたら
ビヤステのテラスにいくつかの空卓が見えた。
舞い戻って案内係の女性に問えば、
「テラスでしたら、すぐにご案内できます」-
おい、おい、初手からそう言うてくれい!
もちろん口には出さず、心の内に吐き捨てた。

接客係の目が届かぬテラスにつき、大ジョッキを所望。
ビールの到着時にラプスカウスをお願いする。
日本人には聞き慣れないこの料理は
ドイツの港町、ハンブルクの名物だが
バルト海沿岸ではくまなくポピュラー。
コンビーフを混ぜ込んだマッシュドポテトを鉄板で温め、、
目玉焼きをトッピングしたものだ。

J.C.がハンブルクを訪れたのは1971年4月のただ一度きり。
ユースホステルにチェックイン後、
荷物を置いたら、そこで知り合った日本人と街に出た。
目指すはザンクト・パウリ(聖パウロ)地区のレーパーバーン。
そう、”世界で最も罪深き1マイル”とも称される飾り窓である。

噂には聞いていたものの、驚いた。
ドイツ人はいったい何を考えてるんだろう?
このエリアを”聖パウロ”なんて呼ぶかねェ。
”性パウロ”なら判るけど―。
てなこってハンブルクではラプスカウスを口にしていない。
その存在すら知らなかったのだ。

=つづく=