2020年1月1日水曜日

第2297話 年の瀬の柴又 (その1)

明けて2020年は令和初めての元旦。
おめでとうございます。
今年も「生きる歓び」をご愛読ください。

さて旧臘、その夜は
世田谷在住の酌友・Fチャンと神田駅裏でちょい飲み。
話題がただ今公開中の映画、
「男はつらいよ お帰り 寅さん」に及んだ。
初めて知ったがヤッコさん、大の寅さんファンだという。

寺社めぐりが趣味の彼のことだから当然、
葛飾・柴又、帝釈天のご朱印は
自慢の帳面に収めたものと思いきや、
柴又は未踏だと、のたまうじゃないの。
よくもまあ、いけシャアシャアと寅さんファンだなんて―

ここでハタと思い当たった。
生まれも育ちも神奈川県・川崎市のくせに
武蔵小杉も溝の口も未訪のご仁だったもんなァ。
溝の口なんて今棲む家の最寄り駅から
大井町線1本で行けるというのに
わざわざ遠路はるばる乗り込んで案内してやった。
わが酌友の手駒にあって
断トツで世話が焼けるのがこのオッサンである。

上方漫才よろしく、そこをツッコむと
返す言い種がいいやネ。
「われわれ川崎市民は県内北部なんか眼中にないの。
 多摩川の向こうを見てるの」
よく言うヨと思いつつも
「ふーん、蒲田か大森あたりネ?」
何か気にさわったらしく、
「ちがわいっ、銀座とか六本木だわいっ!」
開いた口がふさがらないとはこのことである。

そいでもって、結局は薬局、
興奮しずまった彼の口から出た言葉は
「あのサ、よかったら柴又に連れてってくれない」
「ハァ~ッ?!」
まったくもって、ナントカにつける薬はないや。

はぁ~っと、ため息つきながらも
そこはジャケット代わりに親切心を羽織って
この世を渡り歩いているJ.C.、しぶしぶ承諾してやった。
つくづくおのれの人の好さがうらめしい。
ヘヘ、まっ、いろいろ異論はございましょうが
ここはひとつ新春に免じ、黙って先をお読みくだされ。

天気はまずまずながら、風の冷たい夕まぐれ。
柴又駅前広場は寅さん像の脇で落ち合った。
一緒に飲むときは常に先乗りで現地入りする相方に
あらかじめ出しておいた指令は
もしも寄りたかったら寅さん記念館。
もしも食いたかったら「高木屋老舗」の草だんご。
その2件は済ましといてネ、なんならついでにお詣りもネ。
ふぅ~、やれやれ。

=つづく=