2020年1月29日水曜日

第2317話 とんかつ発祥の地に新星 (その1)

上野は言わずと知れたわが国、とんかつ発祥の街。
かつては「ぽん多本家」、「蓬莱屋」、「双葉」が御三家。
そこに「井泉本店」を加えて四天王と呼んだかどうかは
存ぜぬが J.C.的にはさようにとらえていた。
「双葉」無き今、残り3軒が御三家だろうが
最近、そんなエピソードはとンと聞かなくなった。

上野と御徒町の間に「とんかつ山家(やまべ)御徒町店」が
オープンしたのは、およそ8年前。
新星とは言いがたくとも
明治創業の老舗が現存するほどだから
ニュースターとして何の問題もなかろう
カウンターのみの手軽な店は安く美味しく、意に染まった。
当時、連載コラムを持っていた雑誌、
「FRIDAY」で紹介したくらいだ。

ライターのS子チャンがデータを取材してくれ、
判明したことには大手とんかつチェーン、
「和幸」の傘下にあって、同じ「とんかつ山家 上野店」、
両国「とんかつ いちくら」ともども系列店。
かくも長き無沙汰を埋めるように此度は何回か続けて訪れ、
御徒町店、上野店合わせ、全メニューの制覇に果たした。

さっそく訪れたのは上野店。
入店時、BGMのラヂオから仏語の「枯葉」が流れていた。
ん? モンタンじゃないし・・・誰だろう?
まっ、いいや。

一番人気のロースかつ定食(770円)は
6切れにカットされたカツにこんもりのキャベツ。
久々に食べた印象はここの豚肉って
こんなに硬かったかな? というもの。

向かって左側はスジ切りも不十分だ。
うっすらピンクに火入れされたロースに豚本来の旨みなく、
値段が値段だけに国産豚ではあるまい。
右端の2切れはほどよい脂身がつき、
ようやくとんかつの魅力を実感。
日本語の変遷は甘味が旨味につながったというが
当店のロースかつは脂身が旨味に直結している。

大きな茶碗に山盛りのごはん。
硬めの炊き上がりがありがたい。
多過ぎると思う客は「ごはん平らで―」とリクエストする。
味噌碗はタピオカパールと見まごうほどに小さなしじみ。
これでは出汁が足りないのか、煮干しの風味も重なった。

銀杏切り大根の浅漬は柚子風味。
別途、お新香(50円)を発注すると、
同じものが5倍に増え、わさび昆布も少々添えられた。
塩・醤油・ソースが卓上に配備されている。
とんかつにとって重要なソースは
ブルドッグ製の粘度を目安にすれば、中濃あたりだ。

最近は2店ともほとんどの時間を通じて長蛇の列。
2階にテーブル席を備える上野店の回転が若干速いか―。
しばらく来ないうち、
すっかり人気店の仲間入りを果たした「山家」である。

=つづく=