2018年11月9日金曜日

第1999話 レバニラと餃子を食す (その1)

今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。
じゃなかった、森繁の翁といふ者ありけり。
この翁と、先頃亡くなった樹木希林が掛け合う、
キャベジンのTVコマーシャルがあった。
1970年代だったと思う。

記憶をたどって再現してみると、
「ニラレバとボタ餅食べたんだけど、
 キャベジン飲んだほうがいいべか?」
と樹木希林。
森繁応えて
「そりゃ、いいべヨ」
正確ではないにせよ、大方こんな感じだった。

その夕刻。
かかりつけの歯科医に歯の点検と
マウス・クリーニングを施してもらい、
遅い昼食というより早めの晩酌に出発した。

日頃から出没先の偏りを避けるため、
東京23区内に限っては
小まめにパトロールするよう心掛けている。
隅田川の左岸、いわゆる川向こうにある、
墨田区へは8月に行った。
同じく左岸の江東区を最後に訪れたのは2月のことで
ずいぶんと無沙汰をしている。
よし、今日は江東区に決めた!

都営地下鉄の新宿線・西大島で下車する。
ここは”にしおおしま”ではなく”にしおおじま”。
新大橋通りを東に歩くこと数分。
目当ての「亀戸餃子 大島店」に到着した。

餃子で一杯飲って、隣りの「ゑびす」で飲み直し。
そんな目算を立てていた。
ところが「ゑびす」の閉じられたシャッターには
臨時休業の木札が掛かってるじゃないか。
まっ、いいや、ビールを飲みながら行く先の吟味を図ろう。

しばらくぶりの「亀戸餃子」。
大島店の餃子は亀戸本店のそれより好きである。
ってゆうか~、こんなに旨いのヨソにはないぜ。
5カン=270円の値段を考慮すれば、
都内随一の名餃子と言ってよい。
そうなんですヨ、富めぬ者の強い味方が当店なんです。

スーパードライの大瓶を通す。
あっさりとした味付けの茹でもやしは定番のお通し。
チェーン居酒屋の愚にもつかぬ駄品よりよほどマシだ。
本店は2皿(10カン)しばりだが、ここは1皿からOK。
餃子だけなら2~3皿イケちゃうけれど、
今日は隣りの「ゑびす」が臨時休業。
ここは1皿にとめおいて
ほかの一品料理を試したかった。

=づづく=

2018年11月8日木曜日

第1998話 書割みたいな飲み屋街 (その6)

大衆割烹「こまい」でヒョンなことから
2人のうら若き乙女が互いの自己紹介を始めた。
聞き耳を立てたのじゃないが、すぐ目の前の出来事。
加えて両者ともに長野県出身ときては聞き逃せない。

そんなこって小上がりの娘が篠ノ井、
右隣りは松本の産と判明した。
聞き流せばよいものを
ここで余計なくちばしを挟むオジャマ虫が1匹。
「あのぉ、実はボクも長野出身なんです」
虫野郎は言わずと知れたJ.C.その人であった。

「エッ、どちらですか?」
「長野市です」
思いがけない成行きに女将も目を丸くしてたネ。
小上がりの女性は仲間の元へ戻って行ったが
右隣りとはこれをきっかけに会話が始まった。
こういう場所で同郷の方と隣り合わせになるのは
去る1月、千葉県・本八幡のカウンター酒場で
上田出身の女性と遇って以来のことである。

それはそれとして、しゃこが整った。
皿には中型サイズが6尾も―。
おろし立ての山わさびがタップリと添えられている。
いや、これはうれしいな。
山わさびはローストビーフに不可欠の薬味で
英語はホースラディッシュ、仏語ならレフォールという。

しゃこには山わさびより本わさびがなじむが
練りや粉のわさびよりずっといい。
しゃこ本体もシットリと水分を保ち、上手に茹でられていた。
満足、マンゾク。

新しい客が何人か来店し、いよいよ店は活況を帯びてきた。
女将はてんやわんやの大忙しである。
会話をするとノドが渇くため、ジョッキをお替わりしたいが
状況が状況だけになかなか口に出せない。
すると、目ざとく気づいた話し相手が
「お母さん、お客さんの生ビール、私が注いじゃうネ」
あら、あら、手慣れたもんじゃないですか。
つつしんでお礼を申し上げた。

ようやくマトウ鯛が焼き上がった。
オーダーから1時間近く経過していた。
忙しさもあろうが、かなりの大判につき、
ジックリと火が通された証しだろう。
こりゃ食べでがあるわい。

手の空いた女将に青森は白神酒造のその名も白神を
グラスに目いっぱい注いでもらい、おもむろにグビリ。
良質の白身に白神、こりゃ合わんわけがなかろうぜ。
雨には祟られたものの、
店・客・魚・酒に恵まれた幡ヶ谷の夜。
更け込むにはまだまだ早いものがありました。

=おしまい=

「こまい」
 東京都渋谷区幡ヶ谷2-7-6
 03-3375-2449

2018年11月7日水曜日

第1997話 書割みたいな飲み屋街 (その5)

幡ヶ谷の町でマトウ鯛とまさかの出会い。
この美味なるサカナを最後に食べたのは
旧ユーゴスラヴィアを構成していた国の一つ、
スロベニアの首都・リュブリャナだ。

あれは2007年9月8日土曜日。
海鮮料理専門の「Spajza(スパイザ)」なる店だった。
スカンピ(赤座海老)、地中海スズキ、
大メイタガレイはすべて炭火焼き。
マトウ鯛だけが地中海風という料理名のアクア・パッツァ。
ほかにはポルチーニのリゾットとスロベニア野菜のサラダバー。
ワインは白がシャルドネ、赤はピノ・ノワール中心である。
総勢9名、華麗なる晩餐に揃いも揃って舌鼓を
ぽんぽこぽんのすっぽんぽんでありました。

「こまい」の壁にマトウ鯛を見初めて発した第一声は
「マトウ鯛があるんですか?」
「ええ、ありますヨ」
「おお、焼いてください」
飲みものを通す以前である。
だって売切れ御免だけは避けたかったからネ。

そうしておいて生ビールの中ジョッキを発注。
銘柄はサッポロ黒ラベルである。
唇に付いた泡を拭って再びメニューボードを見上げる。
マトウ鯛に心を奪われてろくに目を通してなかったのだ。
前話で紹介した北海の幸は
あとになってからしたためたものである。 

おっとまた一つ必注品を見つけたゾ。
東京湾からほとんど姿を消したしゃこ(蝦蛄)である。
道産かどうか定かでないが、これは見逃せない。
女将の手が空くのを待ってお願いした。

カウンターの客は3人きりだが
奥の小上がりに男女4人のグループが1組。
なんだかんだと注文が多い。
「すみませ~ん、氷とウーロン茶お願いしまーす」
「今忙しいからダメッ!」
ハハハ、怒られちゃってるヨ。

当方は突き出しの肉じゃがを合いの手に2杯目の中ジョッキ。
グループの女の子が畳をいざって顔を出した。
すると女将、J.C.の右隣りの女性にも目線を送りながら
「アンタたち、こないだ会ってるよネ?」
問われた2人はキョトンとしている。
「あらっ、だって同じ長野の出身じゃないの」
「エエーッ!」
同時に驚きの声。
おやおや、何だか面白い展開になってきたゾ。

=つづく=

2018年11月6日火曜日

第1996話 書割みたいな飲み屋街 (その4)

幡ヶ谷は「こまい」のカウンター。
店名の「こまい」はタラ科のサカナ、氷下魚に由来する。
氷下魚の別名は寒海(カンカイ)。
氷下魚にせよ寒海にせよ、北の海の産であることが判る。
そう、当店は北海道の味覚を前面に押し出した割烹なのだ。

壁のボードに書き出された品々に
その特徴が如実に表れている。
刺身はオヒョウ、青ソイ(各800円)。
焼きものはタイトルロールのコマイ(500円)、
ニシン(1100円)、宗八カレイ(1200円)といった具合である。

オヒョウなんて久しぶりに目にした。
1960~70年代にはかなり市場に出回っており、
ヒラメの代用品として人気も高かった。
洋食屋の平目フライはほとんどオヒョウだったハズ。
メスは200kg近くに成長するため、
漢字では大鮃と表記されるものの、
実際はカレイ目カレイ科のサカナである。

その名を聞くこともトンとなくなったが
現在では回転寿司など安価な鮨屋で使われているようだ。
そこでヒラメのエンガワと称されるのは
ほとんどがオヒョウのそれであるらしい。

品書きに或るサカナの名を見とめて瞠目。
何とマボロシのマトウ鯛である。
あまり一般に知られていないものの、極めて美味なサカナだ。
全ての魚種のうちで
最も食味の良いサカナの一つと言ってよい。

漢字は馬頭鯛、あるいは的鯛が当てられるが
どちらもその姿から来ている。
ウマヅラハギのように面長だし、
身体の側面には弓矢の的に似た大きな斑点を一つ持つ。

殊にヨーロッパで珍重され、
高級レストランのメニューにその名を見ることたびたび。
英語ではジョン・ドーリー、仏語でサン・ピエール、
伊語はサン・ピエトロ、西語ならサン・ペドロ。
キリスト教の十二使徒の一人、聖ペテロに由来するが
なぜか英国ではセント・ピーターと呼ばない。

その味を何と表現したらよいだろう。
淡白にして繊細な白身は
マナガツオとツボダイの中間点、
両者のいいとこ取りといったら当てはまろうか。
ん? それじゃもっと判らんってか?
いや、ごもっとも。

マトウ鯛の名を品書きに見るのは
実に11年ぶりのことであった。

=つづく=

2018年11月5日月曜日

第1995話 書割みたいな飲み屋街 (その3)

京王新線・幡ヶ谷駅近く、甲州街道の北側にある、
小さなアーケードには飲食店が数軒並んでいる。
大阪発祥の「串かつ 名代(なしろ)」で
浅草以外ではまず飲まない電気ブランを飲んでいた。
頭の中に高倉健の「唐獅子牡丹」がこだましている。

このとき突然、ジャマをしたのが
店内にあるユーチューブ動画のスクリーン。
画面はエゴラッピンにの「色彩のブルース」だ。
いや、これはジャマどころか、モースト・ウェルカム。
大好きな曲なのだ。
中納良恵の歌声により、健サンはフェイドアウェイしていった。

気をよくして串かつのキスとチーズもちを追加する。
生ビール、電気ブラン、5本の串かつ&キャベツ。
それぞれにそれなりに美味しくいただいて会計は1350円也。
さあ、書割横丁に乗り込むゾ。

再びこのとき突然、襲来したのが折からの驟雨。
不安定な大気がもたらした雨足の強さにたじろいだ。
横丁は目と鼻の先なのに、これじゃたどり着けないヨ。
たまたま串かつ屋の向かいにあった、
「TSUTAYA」に逃げ込んで雨宿りの巻である。

驟雨というのは本来、ザァ~ッときてすぐやむもの。
いや、やまなければならない雨。
それがどうしたわけか、この夕刻の驟雨は掟破りだった。
30分以上降ってもやむ気配がサラサラない。
都知事じゃないが”サラサラない”は人気を落とす。
少しは雨宿りする身にもなっておくれヨ。

1時間近く足止めを食らったろうか。
雨足が弱まるのを見計らい、
ようやく舞い戻った本日3度目の書割横丁。
目当ての2軒をチラリとのぞくと、
どちらもカウンターに空席があった。
しめしめ。

牛タンなんてしばらく口にしてないから
「萬月」にしてみるか。
そのあと「こまい」に流れればいいじゃないか。
いや、ちょいと待て!
腹に収まった5本の串かつが
文字通りボディーブローのように効いてきた。

「こまい」の引き戸を引くと、女将が「いらっしゃい!」。
カウンターのほぼ中央に落ち着いた。
1席おいて右に単身の女性客。
左側も1席おいてこれまた女性が一人。
これを両手に花とは言わぬが
書割横丁では女性の一人飲みが流行りなんだねェ。

=つづく=

「串かつ 名代」
 東京都渋谷区幡ヶ谷2-13-4
 03-3370-7452

2018年11月2日金曜日

第1994話 書割みたいな飲み屋街 (その2)

渋谷区・幡ヶ谷の裏町を徘徊中。
幡代で目当てのバーを空振ったあと、
止まり木をもとめて流れて来たのだ。
店々に灯りが点るまで時間があった。
取りあえずタイム・キリングに努めねば―。
傾きかけた西陽を見上げて思案投げ首。
ここは何も考えずに町を歩くしかない。

甲州街道を渡って駅の南側に移動。
2ヶ月前に訪れた小料理屋「のっこい」の前を通り過ぎると、
薄暗い店内の客席で女将が三味線を弾いていた。
ほ~う、三味のお稽古ですか、粋ですなァ。

よほど立ち寄ろうかと気移りしかかったが
稽古のジャマはもとより、
店先で待つわけにもいかんしなァ。
(また近いうちに寄るネ)―
心につぶやき、代々木上原方面へと立ち去る。

西原の商店街を往来してから書割横丁へ戻った。
ありゃりゃ、17時を回ったのに未だ両店開かず。
いや、マイッたな。
仕方なしに先ほど店先を通った串かつ「名代」へ。
これは”なだい”ではなく、”なしろ”と訓ずる。
大阪・平野にて昭和27年に開業したそうな。

ハッピーアワーを16~18時に設けていて
好みの酒1杯におまかせの串かつが3本付いてワンコイン。
お安いですなァ。
ただし、飲みものは390円までの商品に限られる。

ドリンクメニューに目をやると、
またまたキリンラガーのお出ましで
(小)が390円、(中)は500円超えである。
ハッピーにあやかるためには(小)を択ぶほかはない。
敵もさる者、上手く設定してるなァ。

小ジョッキに突き出し代わりの生キャベツ。
串は牛肉、エリンギ、うずらの玉子だった。
ちなみに当店の串かつは牛が1本90円で
ほかはほとんど125円である。

キャベツを合いの手に飲む生ビールはすぐにカラとなる。
そうだよなァ、小ジョッキなんてめったに飲まんもん。
昼めし抜きにつき、3本の串もアッという間に消えた。
ここでお勘定では愛想がなさすぎる。

追加はまず電気ブラン。
何処にいてもこれを飲れば、浅草にいるような気がしてくる。

 ♪ エンコ生まれの 浅草育ち ♪

健サンの上手くはないが渋い歌声が
頭の中をグルグル回り出した。

=つづく= 

2018年11月1日木曜日

第1993話 書割みたいな飲み屋街 (その1)

その日は渋谷で理髪を済ませ、
サロンの前で渋谷区のコミュニティバスに乗り込んだ。
笹塚行きに揺られること10分あまり、幡代の交差点で下車。
ちょうど2ヶ月前にたどったコースの踏襲である。

停留所のすぐそばにある、
ジャマイカン・カフェ「C」で軽く飲るつもりだった。
ところがギッチョン、店のドアが閉ざされている。
エッ、まさか?!

いえ、閉業したわけじゃなかった。
貼紙によれば、ちょいと長めの夏季休暇の由。
もっとも今の時期なら秋季休暇か―。
取りあえず安心した次第。
安心はしたけれど、
せっかく来たのに休みでは落胆もする。
まっ、そのうち舞い戻ればそれで済むことだがネ。

はて、困った。
15時半じゃ、開いてる店などないヨ。
どこぞへ河岸を変えてみるか―。
だけど時間つぶしのための長距離移動は
それこそ時間の無駄にしてスイカの浪費にもつながる。
賢者、遠きに赴かず、その精神でまいりましょう。

よって近場で飲むことにした。
渋谷区・幡代は初台と幡ヶ谷の中間に位置する。
オペラシティに用はないから必然的に向かうのは幡ヶ谷。
この町は甲州街道の北側にプチ飲み屋街を抱えている。
舞台の書割みたいな情緒をたたえる一画である。

歩き始めてほどなく、6号通り商店街に到着。
通りには肉バルやシュラスケリアがあり、
どちらかというと若者向き。
西へ1本入った界隈が書割横丁(勝手に命名)だ。
辺りをぶらぶらしていれば時の経過も速かろう。

最後にここで飲んだのはいつだったかな?
帰宅後、調べてみたら7年前の師走であった。
笹塚で2軒回ったあと、
書割横丁の「魚貞」、「太陽食堂」を連荘。
その後、初台に流れてもう1軒と、
ヒドい飲み方をしたもんだ、ジッサイ。

同じ店の再訪より新規開拓が望ましい。
まだ暖簾が出てないものの、割烹風の「こまい」、
そして牛タン自慢の「萬月」、以上2軒に狙いを定めた。
定めはしたが開店まで1時間余りもある。
はて、時の名残りをいかにとやせん。

=つづく=