2014年9月3日水曜日

第917話 こち亀タウンに出没 (その3)

亀有駅南口の散策を始めてほどなく、
違和感のある光景に出くわした。
亀有南口は駅から大通りが放射線上にのびており、
これは戦前から変わらない。
それぞれがメインストリートといった風情で
商店街の態(てい)を成している。

奇妙な現場は一本脇道に入った短いアーケードにあった。
間口は2間はあろうか・・・
ガラス張りの作業場で
男女二人が仲良く並んで何やら愛の交歓ときたもんだ。
子づくりに励んでるんだからビックラこいた。
というのは真っ赤な嘘で
彼らが励んで作っていたのはベイビーじゃなく、
サンドイッチでありました。

ちょいとぶしつけながら、モロにのぞきこんでみると、
けっこう旨そうな厚切りのサンドでありました。
喫茶店にありがちな、ひ弱なミックスサンドには似ても似つかない。
こりゃ看過するわけにまいらん。

ガラス戸のすき間から声を掛けてみた。
「あの、すみません、このサンドイッチは買えるんでしょうか?」―
とまどいを見せながらも
並んでた二人のうちの女性のほうが応えたネ。
「ええ、でも高いですヨ」―もちろん値段のことである。

考えようによっては失礼なハナシだ。
アンタには高価すぎるからやめときなさいヨ、ってこと?
落ちぶれ果ててもJ.C.はオトコじゃ!
いかに高くともサンドイッチくらい買えるわい!

おそらく彼女の伝えたい主旨はそうではあるまい。
察するところ、以前にも近所のオバさんが
同じ質問をしたのであろうヨ。
でもって値段の高さに驚かれた挙句、
皮肉のひとつを見舞われたのではなかろうか。

作り手みずから”高い”と宣言したサンドの値段は700円。
まずはそのボックスをご覧くだされ。
カツさんど 〔ちーず〕とある
恵比寿・キムカツ、銀座・ゲンカツともある。
訪れたことはないが、キムカツの名は知っていた。
薄切り豚肉を重ねて揚げた、いわゆるミルフィーユ・カツの店だ。

ふ~ん、そういうことか―。
おみやげ用のカツサンドは外注だったんだ。
でも、考えてみりゃ、こういうことってよくあるんだろうな。
鮨屋の折詰なんかと違って、立て混むとんかつ屋が
いちいちテイクアウトのカツサンドを調整していたら、
イート・イン客を速やかにさばくのは至難となるものねェ。

=つづく=