2014年9月26日金曜日

第934話 西日暮里の止まり木で (その1)

その日の散歩は巣鴨でスタート。
帝都に唯ひとつ残るチンチン電車の都営荒川線、
三ノ輪橋発、早稲田行きに乗り、庚申塚で下車した、

もっとも電車に乗る前、
三ノ輪のジョイフル商店街を行ったり来たりしたから
すでに散歩は始まっていたともいえる。
この商店街は昭和の匂いを今に色濃く残す、J.C.好みのストリート。
東京最古の「砂場」(日本そば屋の)や
都内屈指のレトロなパン屋があったりもして
行き交いのあいだに足を止めることたびたびである。

さて巣鴨。
庚申塚からとげぬき地蔵通りを真っすぐ南下する。
途中、お地蔵さんの高岩寺を参拝することもなく、
JR巣鴨駅前で山手線の跨線橋を渡った。

かつては駕籠町ちと呼ばれた千石を過ぎ、
旧白山通りを通って白山上に達した。
南に向かえば本郷、東なら千駄木である。
少しく迷って千駄木は団子坂下へ。

道灌山下を抜けて西日暮里までやって来た。
日暮れの里に到着したとき、
陽は西の方(かた)に沈もうとしていた。
夕雀としてはそろそろどこぞの止まり木に止まらなければならない。
この町になじみの店はないから田端か日暮里に移動しようか、
それとも久しく訪れていないコリアンタウンの三河島にでも行こうか。
めったに入らぬ焼肉屋で独りさびしくちびちびカルビでも焼きながら
マッコリでも飲むとするかの。

これといった目当てがあるわけでもないのに
三河島方面へと歩を進めた。
日暮里舎人ライナーの高架をくぐってほどなく、
あっさりと看過はできない店舗に遭遇する。

店の名は「菊一」。
京都の祇園あたりなら割烹、
東京の下町だと小料理屋を想起させる屋号である。
ところが西日暮里ではもつ焼き屋であった。
焼きとん好きのJ.C.のアンテナに今まで引っかからなかった店だ。

焼肉なら焼きとんでしょうヨ。
巣鴨からここまで歩いて来たのだ、
いつ入るか・・・今でしょ!

焼肉よサヨウナラ、マッコリよサヨウナラ。
かくして偶然見つけた止まり木に止まった。

 ♪ 流れ女の さいごの止まり木に
   あなたが止まって くれるの待つわ
   昔の名前で 出ています   ♪
        (作詞:星野哲郎)

=つづく=