2015年3月9日月曜日

第1050話 月曜はダメよ (その1)

1980年代半ば、南国シンガポールに4年ほど赴任した。
まだシンガポール政府がカジノを公認するずっとずっと前、
かつて日本軍の占領下にあった時代は
昭南島と呼ばれた島国にはのどかな空気が流れていた。
犯罪が少なく平和で対日感情もよく、
日本人にとっては住みやすい土地柄であった。

往時、よく利用させてもらった日本料理店で
マネージャーを務めていたT栄サンから突然のメールをいただいた。
たまたま何かのキッカケで”生きる歓び”にブチ当たり、
懐かしさのあまりに一筆したためた次第とあった。
いや、こちらも実に懐かしい。

一度、結婚に破れてからはずっと独り身をつらぬき、
今は東京都・北区でのんびりシアワセな日々を送っているとのこと、
まことにご同慶の至りである。
とにもかくにも一度会って
それからのそれぞれを語り合いましょう、てなことに相成った。

待合わせたのはJR埼京線・赤羽駅の改札口に15時。
再会の瞬間に思わずハグの巻である。
向かったのは赤羽でもっとも有名な酒場、「まるます家」。
ところがこの日は月曜日、知らずに来たが定休日ときたもんだ。
ありゃりゃりゃ、やっちまったぞなもし。

ほとんど目の前の立ち飲みおでん屋、
「丸健水産」へ流れてみたら
「まるます家」が休んでいるせいだろう、けっこうな混みよう。
立ち飲みだから長居するつもりはないにせよ、
これじゃいかんせん落ち着いて
思い出話に花を咲かせることなどできやしない。

赤羽で二番目に有名な「いこい」に向かった。
こちらも立ち飲み酒場だ。
ところが再び定休日じゃないのっ!
むか~し、そう、1960年のギリシャ映画に
「日曜はダメよ(Never on Sunday)」というのがあったが
北区・赤羽は「月曜はダメよ」なのでした。

とはいえ、餅は餅屋、蛇の道はヘビである。
この旧軍都にはまだまだ手持ちの駒が残っている。
そう思いながらもその駒まで休みだったらどうしよう・・・
T栄サンの手前、面目丸つぶれじゃないか・・・
一抹の不安が脳裏をよぎるのでした。

東口駅前に戻り、店先に立つ。
OK、オーケー、「まるよし」はちゃあんと暖簾を掲げていた。
営業時間は14時~23時と、
真っ昼間からの飲酒を厭わぬどころか愛でる不届き者には
まことにありがたい存在なのである。
二人笑顔で敷居をまたいだ。

=つづく=