2015年3月20日金曜日

第1059話 なんとなく再びエスニック (その1)

コートもジャンパーも要らぬ季節になって来た。
街を歩いていて、快適なことこのうえない。
過日の昼下がりなど、麻布十番から上野まで一気に踏破してしまった。
噺家・古今亭志ん生の十八番(おはこ)、
「黄金餅」の道筋をモロに逆行したわけだ。

飯どきも酌どきも外した時間につき、
飲まず食わずでただひたすらの歩け歩け運動、
いや、楽しいんだな、これがっ!

「あゝ上野駅」に到着したのは日暮れた17時。
すでに立派な晩酌どきになっていた。
晩酌タイムに立派もへったくれもあるもんかっ! ってか?
いえ、誰はばかることなく、心おきなく酒を飲み、
誰からも後ろ指を指されない時間帯ってこってス。

さすがに超長距離歩行のあと、
ノドは渇くし、ハラは減るしの、Wスターヴェーション。
酒は飲みたし、飯は食いたしの巻である。
どちらにしろ上野という街なら適当な店がすぐ見つかるが
この地はどちらかというと、飯よりも酒の都だ。

もちろんJ.C.自身、飯よりも酒を好む今日この頃、
当然、居心地が悪いわけはない。
わけはないが、当夜はもう一足延ばしたい気分であった。
となると今来た道を戻る、いわば進路を南に取ることはありえない。
行く先は東か、北か、西になる。

東は浅草、北が谷中、西なら本郷だ。
ジャケットの胸ポケットに眠っていたボールペンを宙に投げて
これから向かう方向を占った。
ハハ、黒澤明の名作、「用心棒」における桑畑三十郎みたいだぞなもし。

落下したペンが示した先は今やって来た南と出た。
こりゃあかん、やり直し、やり直し。
二度目に出たのは北だった。
上野から北へ進路を取るのはちょいと微妙。
山手線の外側、昭和通りを北進すれば、恐れ入谷の鬼子母神。
内側を東京文化会館に向かい、坂を上れば谷中方面に達する。

今度はペンをトスせずに坂を上った。
文化会館のみならず、美術館や博物館が建ち並ぶ、
アカデミックなエリアになんとなく足先が向いたのだ。
上野動物園と東京芸術大学を左に見ながら谷中霊園を突っ切った。
桜並木のつぼみは未だかたくなに小さい。

霊園に棲みついている猫たちとしばし戯れる。
定期的にエサを配膳する愛猫家が少なくないのだろう、
霊園の猫はとても人なつこい。
そうしてこうして到着したのは夕陽の名所、
谷中・夕焼けだんだんであった。

=つづく=