2016年1月4日月曜日

第1265話 牡蠣よ 愛しの 牡蠣よ (その3)

さらにつづき。

的矢の牡蠣はたとえば、
宮城・唐桑や岩手・赤崎、あるいは北海道・厚岸など、
それぞれに名産地の濃醇さを特徴とするものに対して
淡麗なデリカシーこそが命だ。

ワインにたとえるとほかの産地がみなボルドー的なのに
的矢だけはブルゴーニュ的なのだ。
とにかく理屈抜きに旨い。
日本に牡蠣の産地は数あれど、この的矢に勝る牡蠣はない。
と、個人的には思い込んでしまっている。

山口瞳風にキザを承知で言わせてもらえれば、
「この店の生牡蠣を食わねば、ワタシの冬は始まらない」ー
ということになる。
必然的に冬場の訪問が増えるため、
夏の間は暇(いとま)をもらうことにしている。

「レバンテ」ではハシリの季節に生牡蠣を出さない。
その時期は牡蠣フライやホースバック(ベーコン巻き)、
はたまたグラタンやカークパトリック(チーズ焼き)で
口火を切るのである。

冷たい秋風が立ち始める頃、初めて生牡蠣が供される。
レモンだけを搾るのが最良の食べ方で
カクテルソースやヴィネグレットは牡蠣本来の風味を損なう。
殻付きが3個で1350円と値が張るのは致し方ない

合わせる酒はサッポロの生ビールで文句はないが
日本酒党なら流麗な越乃寒梅、
ワイン好きにはシャトーメルシャンの白か、
ソアーヴェ・クラシコがおすすめだ。
もちろんフトコロの温かい向きが
シャブリを注文しても止めはしない。

食事の締めに忘れちゃならないのが牡蠣ピラフ。
ドミグラ風のシャトーソースでいただくが
ソース無しでも牡蠣とバターの香ばしい匂いに
食欲をそそられること請け合いだ。

最後に世に有名な松本清張と
三島由紀夫との確執に触れておきたい。
1964年、東京五輪の年に中央公論が
80巻からなる大全集「日本の文学」を発刊するが
当時、谷崎や川端とともに
編集委員に名を連らねていた三島が
強硬に主張して清張の排除という結果につなげる。

=つづく=