2016年1月11日月曜日

第1270話 牡蠣よ 愛しの 牡蠣よ (その8)

OLのY子はともかくも
クラブ・ママのH恵の舌は相当に肥えているハズ。
おそらく日々、東京で一番美味しいものを食べているのは
夜の銀座で働く女性たちであろうヨ。
これが京都なら祇園、大阪なら北新地ということになろう。
その彼女が的矢の牡蠣に驚嘆している。
さもありなんて―。

唐突ながら映画監督・小津安二郎の作品中、
マイベストは「東京暮色」(1957年)。
劇中、小料理屋「小松」の女将に扮した浦辺粂子が
客の笠智衆に奨めている。
「旦那さん、今日は的矢からいい牡蠣が入ってますヨ」―
半世紀以上前に撮られた映画で
すでに的矢の牡蠣のすばらしさが認知されている。
幼少年期から三重県・松坂に住まわった小津は
そのことを熟知していたのだ。

「レバンテ」で必食の牡蛎料理・御三家は
生牡蠣にフライにピラフであるが
となるとお次はフライだ。
この店の牡蠣フライにはいわゆる(上)と(並)があって
粒の大小が違うのだけれど、ここは(並)がオススメ。
ディープ・フライドされることにより、
小粒のほうがよりクリスピーさを感じさせてくれるからだ。
 
フライとピラフのあいだに二品はさんでみた。
まずスズキのソテーだが、これは可もなく不可もなく、
なくてもよかった一皿であった。
 
続いてはローストビーフだ。
冬場は牡蛎専門となるレストランながら
ここのロービーは悪くない。
少なくとも「銀座ライオン」のそれよりもはるかによい。
 
おっと、牛肉で思い出した。
以前、美食家・ロッシーニの名を冠した、
ヒィレ・ド・ブッフ・トゥルヌド・ア・ラ・ロッシーニの
トゥルヌドのことを竜巻だと記したが、これは誤り。
牛肉の部位の一種であった。
3名の読者の方からご指摘いただいた。
 
若い頃働いたホテルの料理人が上記の料理を
「竜巻、タツマキ」と呼んでいたので
よく調べもせずに鵜呑みにしていたのが間違いのもと、
あらためて訂正します。
 
締めの牡蛎ピラフとともに
2本目のシャトーメルシャンがカラになり、
2時間ほどのディナーはお開き。
Y子は豊洲の自宅へ、H恵は西銀座の職場へ、
J.C.は大塚の飲み会の”あとからジョイン”へと
それぞれ行動を別にした。
 
=おしまい=
 
「レバンテ」
 東京都千代田区丸の内3-5-1
 03-3201-2661