2016年1月8日金曜日

第1269話 牡蠣よ 愛しの 牡蠣よ (その7)

立ち飲み酒場の名は「もつくし 有楽町店」。
”有楽町店”を名乗るからには
チェーン展開しているのかもしれない。
もっとも有楽町駅前の一等地とあっては
個人経営では保証金すらままなるまい。

店内を見回すとオープンしてさほど月日を経ていない様子。
スタッフはバイト風のアンちゃんとオネエちゃんが一人づつで
オジさん、オバさんの姿はない。
もっともまだ浅い時間につき、
来客数の増加に合わせてスタッフも出勤してくるのだろう。

「和民」に代表されるような若者酷使のチェーン店舗は
大嫌いだが見たところそんな気配は感じられないし、
短時間の滞在でぜいたくなんか言ってられない。
それなりに楽しんだ40分間だった。

「もつくし」から「レバンテ」までは徒歩2分。
待合わせ時間より10分先着し、
生ビールの中ジョッキを所望する。

ここへ来るたびにいつも思う。
現在「イトシア」が建っている場所にあった、
旧「レバンテ」がつくづく懐かしいと―。
東京広しといえどもあんなに素敵なビヤホールが
都内にはたしてあっただろうか?

浅草一丁目の「神谷バー」、
銀座七丁目の「ライオン」を別格とすれば、
かつて御茶ノ水にあった「コペンハーゲン」、
銀座にあった「ピルゼン」、
そのほかにここぞといった店がトンと思い浮かばない。
現況を嘆くべし。

定刻にどこかで合流したのだろう・・・
手に手を取るようにして同時に人店してきた。
H恵の着物は白地にインクブルーの細かい柄が散った渋いもの。
さすがに銀座の夜の蝶(死語かな?)、
一目でソレと判るほどにあか抜けている。

エニウェイ、再会を祝しての乾杯だ。
酒はシャトーメルシャンの白である。
予約の際に一人当て2個確保しておいた生牡蠣が
レモンを従え、すぐに登場した。

二人とも的矢の牡蠣は初めてだと言う。
「オメエたち今まで銀座でどんな牡蠣食ってたの?」―
答えは返らず、揃って海のミルクを口元に運ぶ。
十数秒後、異口同音に感嘆の声が上がった。
そうでしょう、そうでしょう、
こんなに美味しい牡蠣は世界のどこにもありまっしぇん!

=つづく=

「もつくし」
 東京都千代田区有楽町1-7-1有楽町電気ビルB1F
 03-6269-9102