2016年4月21日木曜日

第1343話 池袋の昼 (その2)

しばしば出没する荒木町だが
ここを新宿とは言わないネ。
同じ新宿区内でも四谷になる。
夜更けて人が引いたあと、
杉大門や車力門の通りを歩くのは風情があってよい。

渋谷へは二(ふた)月に一度、ヘアカットに通う。
ただし、メガステーションには寄り付かず、距離をおく。
かの有名なスクランブル交差点なんか金輪際渡りたくない。
おかげで気に入りの立ち飲み酒場、
「富士屋本店」に行く機会を失ってしまった。
哀しむべし。

そこへゆくと、人混みだらけでも池袋だけは許せてしまう。
自分を育ててくれた街だからネ。
仰げば尊し、わが師の恩。
けっして忘れることはない。

その日は上池袋で所用を済ませ、
明治通りを一路、池袋東口に向かっていた。
時刻は14時半を回っている。
まだ昼めしを食べていなかったが
この時刻になると、行き場所が限定されてしまう。

学生時代によく利用した「銀座ライオン 池袋東口店」で
生ビールを飲みながら、何かつまむとするかな?
そんなアイデアが浮かんだときである。
目の前にラーメン・チェーンの「福しん」が現れた。

都内各地にあるチェーンのラーメン店というと、
誰しもが「日高屋」を思い浮かべるだろうが
この「福しん」も城北を中心にかなりの展開力を発揮している。
池袋周辺、東武東上&西武池袋沿線が主な勢力圏だ。

ラーメンにせよ、牛丼にせよ、チェーンのありがたい点は
中休みがなく深夜まで営業していること。
そしてわが身にとっては何よりもビールが飲めること。
東京には昼日中(ひなか)から気軽に飲める場所がない。
ロンドンのパブ、パリのカフェ、ローマのバール、
ニューヨークのバーに匹敵する酒場がほとんどないのだ。
嘆くべし。

「ライオン」のことなどすっかり忘れて
「福しん 区役所前店」に飛び込んだ。
さっそく生ビールの中ジョッキである。
これが390円。
ありがたし。

グビビッ、プッファーとジョッキ半分ほどを飲み下し、
注文したのは手もみラーメンである。
これまた390円。
再びありがたし。

=つづく=