2016年4月26日火曜日

第1346話 池袋の昼 (その5)

池袋西口の「ふくろ本店」をあとに
埼京線に乗って北区の酒場に向かおうとするところ。
JRの改札口にてポケットから
パスモを取り出した瞬間、突如として気が変わった。

そのまま人混みの中を抜け、
東口のバスストップへ直行の巻。
乗り込んだのは浅草寿町行きの都営バスだ。
北区をやめて向かったのは台東区。
何となれば、雷門の「神谷バー」で
生ビールを飲みたくなったからだった。

実は恥ずかしながら浅草でも
「神谷バー」の店先で気が変わってしまい、
吾妻橋を渡り、アサヒビールの直営店「隅田川 Lill」へ移動。
結局は薬局、氷点下のスーパードライに切り替えた。
やれやれ、おのれの浮気性にはほとほと呆れる。
いや、これは浮気性どころじゃないネ、
言わば精神分裂症ですな、もはや―。

その日から数えて10日後。
池袋西口に再び.C.オカザワの姿を見ることができた。
訪れたのは10日前に見初めた天丼屋で
屋号を「天丼ふじ」という。

店内はコンパクトなコの字型カウンターのみ。
空席がなくしばら くの間、立ちん棒を余儀なくされた。
カウンターの中にバイトと見られる若い女性が一人。
アジア人だがチャイナではなさそうだ。
いや、店の前が池袋チャイナタウンの入口だから
やはりチャイニーズかな? 
ここ数年、急激に増えつつあるミャンマーの人かもしれない。

奥の狭い揚げ場で初老の店主が黙々と天ぷらを揚げている。
日本人店主とアジア女性のアルバイト。
この組合せは昨今、小規模な飲食店の定番に定着した感あり。
 
穴子天丼には主役の穴子が丸一尾。
春菊・しし唐・海苔の小片トリオが脇を固めている。
それにわかめの味噌汁が付いた。

ビールが欲しいところなれど、
誰も飲んでいないし、あるのか無いのかも判然としない。
訊ねる気にもなれず、
左手に持つドンブリの小宇宙に集中することにした。

800円としては上々の穴子天丼である。
他の客が注文するのは海老が主役の天丼ばかり。
いや、実に日本人は海老好きでありますな。
確かにルックスは穴子やキスやイカよりも
海老のほうがはるかに見目うるわしくはありますがネ。

=つづく=