2017年2月7日火曜日

第1553話 素晴らしき土曜日 (その7)

上野は公園口の真ん前に位置する、
東京文化会館へ出かけたときのこと。
開演前のひとときをすぐ脇の「GREENSALON」で過ごした。
会計の際、キャッシャーで手が滑り、
現金とカード類を床にバラまいてしまった。
周囲の人たちがかき集めを手伝ってくれたっけ・・・。

何しろ数十年も札入れを持たぬ身につき、
いつもパンツの尻ポケットを財布代わりとしてきた。
折りたたんだ札のあいだにクレジットカードやキャッシュカード、
はたまたドライビングライセンス等をはさみこんでいる。
それをバア~ッと景気よくやっちまった。

すべて回収したつもりのカードだったが
オペラの終演後、アメックスの紛失に気が付いた。
明朝にでもカードの無効通知をしておくか―
のんびり構えていたら翌日、
当のアメックスから電話連絡があった。
なんでも落としたカードが上野警察署に届けられている由。
何とまぁ、手回しのよいことで―。
「GREENSALON」のスタッフがちゃんと届けてくれたのだ。

さっそく上野警察に出向き、カードを無事回収。
帰り際、玄関でそば屋の出前とすれ違う。
プ~ンときたのは紛れもないかつ丼のいい匂いである。
ふり向けば出前のオジさんの肩には
もりそばのせいろが数段にドンブリが二つ。
そばの香りはしなかったが、かつ丼の匂いはしっかり嗅いだ。
ちなみにこのそば屋は
浅草通りをはさんで署のはす向かい、老舗の「翁庵」である。

めったに立ち入らぬ警察署ながら
警察とかつ丼はピタリとハマる。
これはたぶんにTVドラマの影響だろう。
取調室ですべてゲロした容疑者に
ふるまわれるのはきまってかつ丼だからネ。

もっともこのときすれ違ったドンブリは
おそらく昼めしとして署員の胃袋に収まるものだろう。
それにつけてもいったいいつの頃から取調室に
かつ丼が出入りするようになったのでありましょうや?

いろいろと調べてみたら
行き着いたのは1本の日活映画であった。
森繁久彌主演の「警察日記」(1955年)が
どうやらそのルーツであるらしい。

10年ほど前に池袋の名画座で初めて観たが
人情味あふれるなかなかの佳作にて
ついホロリとさせられたことであった。

=つづく=