2017年2月17日金曜日

第1561話 素晴らしき土曜日 (その15)

団子坂下から北へ1分。
おそらく店主が毛沢東の信奉者なのだろう、
店名を「毛家麺店」という。
”飯店”ではなく”麺店”とある。

なるほど、立て看板のメニューには
担々麺だけが赤字でしっかり記されていた。
ほかに赤字モノは見当たらないから
これが当店のスペシャリテであることに疑いはない。

コンパクトな店内は
カウンターが数席のほか、テーブルが1卓のみ。
先客は単身の2名だけで卓は空いている。
すんなりとカウンターに身を沈めた。

生ビールはエビスのみ。
好きな銘柄ではないが
生ならなんとかスッキリ飲めないこともない。
よって注文に及ぶ。

御徒町から千駄木まで歩いたから
いや、もとをただせば本日、走破したのは

上中里―駒込―動坂下―道灌山下―谷中銀座―
上野桜木―上野公園―アメ屋横丁―御徒町―
不忍池―根津―千駄木

以上の順でまことにけっこうな距離である。
脇目も振らず一気にルートを歩き抜いても
3時間近くはかかるんじゃないだろうか―。
したがって御徒町の「味の笛」で一息入れたものの、
マイ・スロートはガス欠を強く訴えていたのだ。

菜譜を手に取ると、意外にも点心類が豊富だ。
独り飲みにこのスタイルはありがたい。
ここでハッと店内に流れるBGMに気がついた。
和田アキ子の「あの鐘を鳴らすのはあなた」である。
おう、おう、いいじゃないの歌謡曲、
有線放送だろうから行く末に期待が持てるというものだ。

カウンター内の店主にニラ饅頭をお願いした。
毛沢東の肖像画を大っぴらにしているから
彼は間違いなく、フロム・メインランド・チャイナ。
開業後かなりの歳月を経ているはずなのに
どうも日本語が覚束ない。
まあ、何とか意思は通じたがネ。

団子坂に至近の一等地で、この日本語力で、
よく商売を立ち上げたものよと感心していると
奥から女将が現れた。
こちらは流暢ではないものの、
格段に日本語がお上手、口八丁手八丁であった。
婦唱夫随かァ、なるほどねェ。

=つづく=