2018年11月29日木曜日

第2013話 ビールの小瓶でカキのバタ焼き (その1)

その日、降り立ったのは東京メトロ半蔵門線・水天宮。
福岡県の久留米水天宮を総本営とする神社のご利益は
安産と子授かりである。
取りあえず神社に用事はないので
目の前の人形町通りを北西に歩き、甘酒横丁にやって来た。

短い通りの名は明治の初め、
横丁の入口に甘酒屋があったことに由来するそうな。
本日のターゲットは
創業1904年、洋食の「来福亭」である。

ここでちょいと、自著「下町を食べる」から
当店の稿を紹介してみたい。

=黄色いカレーが懐かしい=

隣りの「玉ひで」の行列が
さぞやうっとうしいことだろう。
ところがそんなものはどこ吹く風。
マイペースで昔ながらの洋食を食べさせてくれる。

創業明治37年とこの店も古い。
狭い1階は使い込んだ木製のテーブル、
2階には座敷が2部屋、どちらも癒しの空間である。
近所の「芳味亭」より落ち着くから訪れて損はない。

オムライスとチキンソテーが気に入りで
黄色いカレーライスも懐かしい。
お運びはオバちゃんとオバアちゃん。
さすがに階段の上り下りがシンドそうだ。

もう十数年も前のことで女性たちの顔を
ハッキリ覚えちゃいないが今回もやはり、
同じオバちゃん&オバアちゃんと思われた。
加えてもう一人、娘さんらしき方もおられた。
娘といっても、40歳前後の主婦とお見受けする。

1階奥のテーブルに独り。
ビールはキリンラガーで、その小瓶をお願いする。
柿の種&ピーナッツとともに運ばれた。
家を出たときはカキフライと決めていたが
メニューを見て迷う。
同じカキでもソテーの文字が目に飛び込んだのだ。

おや? ホタテのフライとソテーがあるじゃないか。
まっ、自分の心の内ではカキとホタテじゃ、
カキの圧勝に終わるが
ツレ、それも女性ならススメてみたいホタテではある。

さ~て、カキ。
フライの初心を貫くか、ソテーに浮気するか、
目の前にあるクエスチョンはこのことであった。

=つづく=