2019年8月28日水曜日

第2207話 穴子がイノチの江戸前天丼 (その2)

浅草は国際通り沿いの「多から家」。
カウンターで天丼の出来上がりを待っている。
数名の先客がいたが15分ほどで江戸前天丼が整った。
ごま油の香り立ち上るどんぶりの陣容は

穴子丸一本
芝えび三連いかだ
きす小ぶり
めごち超小ぶり
しし唐素揚げ

どんぶりの一番奥に立派な穴子が横たわる。
それを枕にいかだの芝えび。
手前にきす・めごち・しし唐のトリオだ。

箸が最初につまみ上げたのはきす。
色白の身肉がホロホロと崩れてゆくものの、香りは薄い。
めごちには臭みというのじゃないが独特の匂いにクセあり。
素揚げのしし唐で舌をリセットしてから芝えびのいかだ。
これにもあまり風味を感じない。

丼つゆは色黒のわりに意外とアッサリ。
江戸前天丼を謳うなら、いま少しのパンチがほしい。
ごま油に負けている。
硬めに炊き上がったごはんはOK。
絹ごし豆腐が浮き沈みする味噌椀は信州味噌だろうが
温め直しだから香りがトンじゃった。
キャベツもみの香の物はどうということもなし。

さすがに主役の穴子は存在感があった。
高温でカリリと揚げ切るスタイルに最適の天種は穴子。
穴子こそが江戸前天丼のイノチで
ほかの種が束になってかかっても
それらを寄せつけぬパワーを秘めている。

J.C.は天ぷら・鮨を問わず、穴子が大好き。
天種では一番、鮨種でも3本の指に入る。
そしてめったにお目に掛からぬ刺身が垂涎。
30年近くの以前、韓国は釜山の海っぺりに並ぶ屋台で
初めて穴子刺しを食べたとき、その旨さに瞠目した。
この数年前、マンハッタンで食した、
生はまぐりの旨さに匹敵する衝撃であった。

何故に日本人は穴子・はまぐりを生で食わんのか?
一憶総グルメと言われて久しいわが民族も
結局は薬局、大したこたあないやネ。

帰り際、壁の色紙に気を引かれた。

エノケンもロッパも通ひしたからやは
大正ロマンを今に伝ふる   -勝―

まさか勝新じゃなかろうが、いったいどこの御仁だろう?
店主に訊ねたらマサルさんなる一般人とのこと。
浅薄な芸能人があっちゃこっちゃで
求められるがままに書きなぐる色紙だが
何のこたあない、一般人にマサルものなし。

「多から家」
 東京都台東区浅草1-11-6
 03-3841-0519