2019年8月1日木曜日

第2188話 わざわざ練馬で三球三振 (その4)

練馬区・練馬の「あわび亭」。
都内でも珍しいあわび専門店である。
あわびだからこそ、そのまんまの店名を名乗れるわけで
「ふぐ亭」、「うなぎ亭」、
「かに亭」なんかじゃサマになるまい。
だが、あわびの同僚「さざえ亭」はアリでしょうネ。

前菜に続いて湯葉刺し。
これは箸休め的な存在だろう。
そしてあわび&伊勢海老刺しが登場。
5500円のコースなのにずいぶんと豪勢だ。

ふむ、フム・・・あわび本体よりも
脇役の肝とヒモのほうが美味いや。
お次もあわびで、天ぷらが来た。
これには柚子塩と山椒塩が添えられる。
まっ、どっちもどっちかな。
伊勢海老はなかなかで
殊に鮮やかな夕焼け色の肝がうれしい。

泡は泡でも日本のビールからスペインのカヴァに切り替える。
スプマンテやカヴァ、たとえシャンパーニュですら
J.C.は好んで飲まぬが女性には泡好きが多いからねェ。
もっとも、あわびに赤という選択肢はありっこない。

中華風の大皿がドンときた。
鱧の葛たたきみたいなのに海老と鶏肉と野菜のあんかけだ。
舌先を変えるには有効ながら、肝心の箸がちっとも進まない。
今頃になって焼きとんとハムカツが効いてきやがった。

殻付きの活あわびを3個、木桶に並べてお運びさん現る。
直火の網焼き、いわゆる踊り焼きか、
バタ焼きのチョイスを訊かれ、2人は即答で踊り焼き。
1卓2択は受け付けてもらえぬため、素直に従う。

熱さに耐えかねたあわびがしきりに身をよじる。
やがて息絶え、あとはあぶられるがまま。
この光景を目にしながらグラスを傾けているが
あまり気持ちのよいものではない。
生きものを育て始めて早や15年。
心のうちで生類憐みの思いもまた育った結果だ。

真鯛1尾を丸ごと使った塩窯焼きが運ばれたとき、
もともと旺盛でなかった食欲は完全に消え失せていた。
引き続きバックンバックンやってる2人の手前、
一箸、二箸付けてみたものの、
これはあくまでもカタチ作りに過ぎない。

締めは伊勢海老の殻で出汁をとった味噌椀。
残念ながら化学の子が存在感を主張して
さしもの海老の王様も形無しである。
支払いは、¥8000 パー・パースン。
一般的にはお値打ちだろうがJ.C.には余計なものが多過ぎた。
遠征の果てに3軒空振り、哀れ三球三振。
どうも練馬とはウマが合わないや

=おしまい=

「あわび亭」
 東京都練馬区練馬1-35-1
 03-3557-7369