2019年11月8日金曜日

第2259話 クラシックを聴きながら・・・ (その2)

「BLUTUS」はかなりのスペースで
「銀座ウエスト本店」を紹介している。
― 喫茶店は日本が世界に誇る文化です
に始まる、特集”喫茶店好き。” では
実に6頁も割いている。
加えて表紙までが
当店のミックスサンドとブレンドコーヒー。
並々ならぬ力の入れ様だ。

可愛いケーキ、きれいなサンドイッチ、
気品ある店内を映し出す数々の写真の中で
強く印象に残ったのは一人の接客嬢。
カウンター横でトレーを小脇にたたずむ姿が
店内の空気にすっかり溶け込んでいる。
カメラがとらえた、その横顔の涼やかなこと。
整ったおとがいに知性がにじみ、
ポニーテイルに束ねた髪も清楚で好もしい。

席はほとんど埋まっていたが待たずに案内された。
レジ係を含め、ウエイトレスは4人。
無意識のうちに、いや、じゅうぶん意識しながら
「BLUTUS」の被写体を目が探していた。
何せ、雑誌の発行は2年も以前。
彼女はすでに退社したかもしれない。

ス~ッと見渡して・・・いました、いました、おりました。
ただし、ポニーテイルがショートカットに変わっている。
何が彼女をそうさせたか?
野暮な詮索はご法度の裏街道、とにかくいてくれてよかった。

その彼女がオーダーを取るため、マイ・テーブルに―。
多少の気取りがあったんだねェ、
柄にもなくウインナーコーヒーと
ケーキのセットなんぞを注文してしまう。

コーヒーを飲まない時期が長く続いたせいもあり、
殊にウインナーともなれば、
それこそ本場・ウイーンでの1杯以来だから
四半世紀は口にしていない。

今度は木の盆に盛られてケーキが運ばれ来た。
およそ20種が行儀よく並ばっている。
モンブラン風のマロンケーキにしかかったとき、
サヴァランが目に入った。
サヴァランは数多ある洋菓子のマイ・フェイヴァリット。
迷うことなくチョイスした。

卓上にさりげなく置かれたリーフレット、
「風の詩」を手に取り、耳を澄ませる。
BGMはクラシック。
今はリストの「ラ・カンパネッラ」が流れている。

=つづく=