2019年11月11日月曜日

第2260話 クラシックを聴きながら・・・ (その3)

ウインナーコーヒーとサヴァランを
サーヴしてくれたのは別の女性。
いや、ベツにいいんだけどネ。
ブレンドをブラックでそのまますする。
う~ん、もうちょい深煎りが好みかな。

別添えのクリームを浮かべ、もう一口。
レモンの香りのサヴァランは軽いタイプ。
すっきりとした後口はラム酒でなく、
キルシュによるものだろうか―。
喫茶店に慣れないせいか、尻の座りが悪い。
グラスになじんだ指に陶器のカップが重たい。

ポニー転じてショートの彼女が
すすめるコーヒーのお替わりにうなずきながら
深く考えもせず、言葉が先走った。
「髪の毛、切っちゃったんですネ」
驚きの表情はすぐ笑顔に戻り、白い歯がこぼれた。
「ハイ、そうなんです」
「ずいぶん前に?」
「ええ、けっこう前に―」
以前来た客の再訪と思われたに相違ない。
まさか、雑誌の写真で見たとも言えないし-。

15時近く、にわかに立て混んできた。
3時のおやつということらしいが
それなら東銀座の「文明堂」だろう。
BGMがバダジェフスカの「乙女の祈り」に替わった。
これを潮にレジへ向かうと、ショーケースに期間限定、
ラグビーボール形のリーフパイが並んでいる。
今夜の決勝が終ったら、明日は販売終了になるのかな?

支払いを済ませて表に出るとき、
いつの間にやら見送りに来た彼女が
微笑みながらドアを開けてくれ、
「またお待ちしています」のひと言。
こちらもつい、口元ををゆるめ、
「それじゃ、またネ」と会釈。
オジさんはかような心くばり・気ばたらきに弱いんだ。

年がいもなく胸弾ませて歩く銀座は太陽がいっぱい。
そういえば数日前にヒロインのマルジュ役、
マリー・ラフォレが80歳で亡くなった。
一方のアラン・ドロンは先週末、
84歳の誕生日を迎え、まだまだ元気な様子。

それはともかく、何やらこの調子だと
銀座に来るたび「ウエスト」に寄りそうだ。
心なしか物語が始まる予感すらしてきた。
「ウエスト再度物語」な~んちって―。

築地で見送った調達を地元の鮮魚店に託す。
ホウボウ薄造り、イワシ刺身を購入すると、
どちらも秀にして逸、瞠目を誘う美味であった。
昔の人は言いました、遠くの河岸より近くの魚屋。
だよなァ、ですよねェ!

=おしまい=

「銀座ウエスト本店」
 東京都中央区銀座7-3-6
 03-3571-1554