「一平」のお勘定は3400円だったかな?
秋の夜はつるべ落としというけれど
日が短くなったなァ、17時過ぎで真っ暗だヨ。
船橋駅に戻る鶴を表通りまで送り、
「それじゃまたネ」と軽いハグ。
こちらは飲み屋街にとって返す。
よほど「一平」に戻ろうかと思ったが
それじゃあまりに芸がない。
今度またいつ来れるか知れぬ船橋の夜。
探索に励もう。
この店が良さそうだ。
立ち止まったのは「花生食堂」。
さっきは裏路地だったが、こちらは半オモテ通り。
たたずまいに好感が持てた。
引き戸を引くと店内は意外に狭い。
カウンター5席ほどに
相席できそうなテーブルが1卓のみ。
取り仕切るのは初老の女将さん1人きり。
先客はカウンターに2人とテーブルに1人。
みな単身だがカウンターは常連とみえて
言葉を交わしていた。
うち1人が左端を示して
「先輩、どうぞこちらへ」
「ああ、どうも、おジャマします」
こういう店では雪解けならぬ打ち解けが早い。
頭ン中では百恵チャンが
「いい日旅立ち」を歌い出したが
披露は控えておこう。
浪花の小姑がうるさいからネ。
と言いたいところなれど最近、
ウンともスンとも言わないんだ。
コロナかフルーにやられたんかな?
それはそれとして「花生食堂」。
開業80年を超えたそうだ。
飲みものは此処でもドライの大瓶。
つまみは野菜炒めをお願い。
そうこうするうち、
先客はパラパラと帰ってゆき、
後客がパラパラと入って来た。
そして一様に湯豆腐を注文する。
18時を前に暖簾は仕舞われた。
豆腐を突つく客の横顔を見ながら
久保田万太郎の句が思い起こされた。
湯豆腐や いのちのはての うすあかり
苦手な赤貝のにぎり鮨を
無理に飲み込もうとして窒息死した万太郎。
豆腐を食ってりゃよかったものをー。
赤貝や いのちのはての 案内人
「花生(はなしょう)食堂」
千葉県船橋市本町4-16-30
047-422-6565