2019年4月9日火曜日

第2106話 誘われてエスカルゴ (その2)

♪   アアアアアー アアアアー
  アアアアアー アアアアー
  真夏の匂いは 危険がいっぱい
  そよ風みたいに 感じるその髪
  素肌にこぼれて 素敵さ
  押さえた心に 火がつく
  僕から乱れて しまったみたい
  誘われてフラフラ 乱されてフラフラ
  誘われてフラフラ 乱されてフラフラ
            (作詞:橋本淳)

郷ひろみの「誘われてフラメンコ」は1975年夏のリリース。
ロンドン在住のJ.C.は、パリを新しい生活の場と定め、
転居の準備を進めていた頃だった。
結局はパリに落ち着くこと能わず、
急遽、帰国する破目に陥ったのだがネ。

それはそれとして
ここで何だってフラメンコが出てくるんだ! ってか?
いえ、あの、その、
エスカルゴからフラメンコが連想されたのもですから・・・。
そりゃオメェ、いくら語呂合わせだってムリがあるだろうヨ。
はい、ごもっとも、反省しまッス。
素通りして先をお読み下され。

スーパードライの中ジョッキ片手におつまみ2品を選択。
ブルゴーニュ風だったか、ガーリック風味だったか、
とにかくそんなネーミングのエスカルゴと
洋風トロトロ豚角煮にしてみた。

最初にエスカルゴこと、カタツムリ。
またの名をデンデン虫が登場。
紛れもないエスカルゴ・ブールギニョンで
ニンニクバターの香りが食欲を刺激する。
ところが・・・
匂いは本格的ながら味わいはイマイチ。
仏産の水煮缶詰だろうが下ごしらえ不十分で水っぽい。

一方、トマト味の豚角煮はトロトロでなく、むしろパサパサ。
”トロトロ”なんて余計なことをメニューに書くから
客も余計な期待を寄せるじゃないか、ったく。

生ビールのお替わりもせず、
金1080円也を支払ってエスカレーターを上がる。
このときパッとひらめいた。
最後にエスカルゴを食べたのははるか昔と思いきや、
数年前に仲間と二次会で立ち寄った「サイゼリヤ」にて
誰かが頼んだのを1粒つまんだっけ―。
あっちのほうが美味しかったような記憶が
ほのかによみがえりましたとサ。

「ハンバーグ まつもと」
 東京都荒川区荒川区荒川6-6-1 ウエストヒル町屋B1
 03-3800-2446

2019年4月8日月曜日

第2105話 誘われてエスカルゴ (その1)

先日、乗り込んだ電車が特急だったため、
通過してしまった荒川区・町屋を再トライ。
この日は別段、狙いを定めたのではなく、
数軒の候補店を頭の隅に納めて訪れた。

町屋は、東京メトロ千代田線、京成本線、
都電荒川線(東京さくらトラム)と、
乗り入れる路線が3本もあるのに
これといった名所旧跡や娯楽施設があるでもなく、
つかみどころのない、漠然とした町である。

ちなみに都内における駅前の放置自転車数では昨年、
4年連続トップの北区・赤羽に次いで
ワースト2位へ急上昇した。
こういうのを大躍進とは言わんだろうがネ。

そんな町屋だが早朝から深夜まで飲む場所には事欠かなぬ、
左党にはありがたくも便利な町である。
したがって、下戸にはまったく無縁の土地柄だ。
過去に訪れた人もせいぜい町屋斎場の通夜や告別式に
参列したくらいではなかろうか。

ぶらぶらと歩き始めて
尾竹橋通りが荒川線と交差する踏切前のビルに
ハンバーグ専門店の看板を見とめた。
ビル地下ではほかにも数軒の店が営業しており、
下りエスカレーターに誘われるように降りてみた。

ハンバーグにはあまり興味がないものの、
店頭のメニューに目が釘付けとなる。
当店は洋食屋ながら、主力はハンバーグ。
店名も「ハンバーグ まつもと」だ。
ここに洋食屋には珍しいおつまみセットというのがあった。

昼めしどきならともかく、
夕刻以降はを酒をたっぷりいただくが
つまみはチョコッとあればいい派の身に
このおつまみセットを救いの神と言わずして何と言おう。
頭の中にいくつかあった今宵の候補店は
ワン・クリックで、すべて消去されたのである。

唐揚げだの、海老フライだの、
月並みな揚げものが並ぶなか、
食指を動かされたのはエスカルゴだった。
そう、エスカルゴに誘われたのだ。

ふ~む、エスカルゴねェ。
最後に食したのはいつだったかなァ・・・。
思いをめぐらせていると、
突如、またもや頭の中を
軽快な曲が流れてきやしたぜ。

=つづく=   

2019年4月5日金曜日

第2104話 花はみな 散りゆきて (その2)

谷根千ウォーカー・J.C.が見つけた、
一株のローズマリーが一輪の花をつけた。
生まれて初めて見るローズマリーの花びらである。
数日前には増えていて4~5輪ほどが咲いており、
こちらは一向に散る気配がない。

嬉しくなってその日の夜は
精肉店で銘柄豚・東京Xの厚切りロースを購入し、
ポーク・チョップを焼いて食べた。
ローズマリーとガーリックをたっぷりと効かしてネ。

昨日、上野のお山を下り、
不忍池のほとりを歩いた。
気の早い桜の花びらはすでに散り初(そ)めている。
今年の東京の桜もあと数日の命だろう。

ベンチに腰を下ろし、水面(みなも)を見つめていたとき、
突如、タンゴのメロディーとともに
歌の文句が頭に渦巻き始めた。
花よりダンゴではなく、花よりタンゴであった。

どんな曲なんだ? ってか?
やっぱり聞きたいでしょ?
大阪の小姑に叱られるのを覚悟で
それじゃ3番だけネ。

♪   冬子は冬子は ひとりで生きてる
  ときどきそっと 微笑むけれど
  何んの花やら すぐに散りゆく
  あ~あ あ~あ 冬子よ
  冬子よ雪なら とけよわが手に  ♪
        (作詞:佐伯孝夫)

「冬子という女」は先週紹介した「東京午前三時」と同じ、
フランク永井の歌唱に佐伯孝夫の作詞、
そして吉田正の作曲で、リリースは1964年。
美しいメロディーに、何と言っても歌詞がすばらしい。
殊に赤字部分が非凡だ。
佐伯はさすが西條八十に師事しただけのことはある。

ネットの動画でフランクの歌声に接したとき、
映像の女優、結城しのぶに惹かれた。
おかげで彼女の顔と名前が一致もした。
結城は1953年、千葉県・松戸市出身。
J.C.も松戸に7年ほど棲んだことがあり、
ささやかな縁を感じる。

長いブランクのあと、
今世紀に入り、芸能活動を再開したという。
散り果てることはなかったのだ。
昔の姿だが三白眼っぽい瞳が魅惑的。
主役級の女優ではなかったけれど、
遅ればせながら、ファンになってしまいましたとサ。

2019年4月4日木曜日

第2103話 花はみな 散りゆきて (その1)

ひと月前のとある午後、散歩の途中だった。
鼻腔くすぐる魅惑の匂いに、思わず辺りを見回す。
飲食物、いわゆる口に入るものは別として
この世の中でJ.C.がもっとも愛するのは
沈丁花の匂いである。

前話で紹介した谷中・初音小路からほど近く、
七面坂を下り切った先の1軒のおウチ。
玄関脇に純白と薄紅紫の花をつけた、
沈丁花がそれぞれ一株づつ。
辺りに人影のないのをこれ幸いに
顔を近づけて嗅ぎまくったことだった。

以前、自著の編集者から
沈丁花の香りの香水があることを聞いたが
わが人生において未だ、
その香水をまとった女性にめぐりあっていない。

先日、新聞(3月29日付け)のとあるコラムに目がとまった。
タレントの清水ミチコが綴る「まぁいいさ」。
今回のサブタイトルは「鼻は春開く」だ。
一文を紹介したい。

ちなみに沈丁花の読み方は
「ジンチョウゲ」でも「チンチョウゲ」でもいいらしいですが、
私はだんぜん「チンチョウゲ」の方が
可愛らしくて好きです

まったくもっておっしゃる通り。
J.C.も断然、「チンチョウゲ」である。
「ジンチョウゲ」では響きが悪すぎて
あのかぐわしい花の特徴を表していない。
前々から気になってしょうがなかったのだ。
ミッチャン、よくぞ書いてくれました。

子どもの頃のわが家では
というより、ウチの母親もこの花が大好きで
ずっとチンチョウゲと呼んでいたから
父も息子たちも自然に聞き覚えており、
いまわしいジンチョウゲの呼称は
大人になって初めて知って愕然としたものだ。

匂いを嗅いだチンチョウゲは散ってしまったが
そのお宅から、そう遠くないマンションの入口に
一株のローズマリーが植わっているのに
気づいたのは3年前のこと。

先日、そこを通りすがると、
ローズマリーが一輪の可憐な花をつけていた。
ラベンダーより淡く、
藤の花よりは濃い紫色の花弁だった。

=つづく=

2019年4月3日水曜日

第2102話 旧友 マニラより来たる (その4)

上々の焼き鳥を合いの手に
当方、芋焼酎・佐藤のロック、
相方、角のハイボールに移行していた。
互いに数分で2杯目に突入である。

独り0次会のせいか、このあたりから酔いが回り始めた。
オヨヨ、こんなハズではなかったに―。
相方といえば、まだまだシラフ同然。
ピッチに衰えを見せず、ガンガン飲っている。
これを馬飲と言わずして何と言おう。
彼のスマホで持ち馬のリストを見せてもらいながら
さらにグラスを重ねた。

こちらが隣りのカップルと言葉を交わし出すと、
あちらは店主と馬のハナシを始めた。
店主の趣味は競馬らしい。
ともに馬好きということでウマが合ったようだ。

この夜は「鳥真」だけで到底終らないが
翌日、メールが着信したから
本人の諒解を取らずに紹介しちゃおう。

昨夜は初音小路、夕焼けだんだん、
夜店通りと、初体験世界を堪能出来ました。
カラオケ2店も堪能させて頂きました。
日本には毎月来てますので
何か面白い企画があればお声がけください。
                     (中略)
追伸
日曜は中山で グラスボイジャー勝ちました。
焼鳥屋の親父さん、
馬券取ったかもしれないですね。

半
というこって人物の正体をバラしちゃったけど、
ベツにリチャード・キンブルみたいな
おたずね者じゃないから構わないよネ、半チャン?

彼からのメールにある通り、
「鳥真」をあとにしたオッサン2人は
カラオケ・バー、コリアン・スナックとハシゴ旅。
飲みも飲んだり、歌いも歌ったり。

そのせいで帰り道は足元がフラついちゃってたヨ。
腰くだけとまではいかなくとも千鳥足だったに違いない。
人生下り坂のジイさんや
飲み方知らずのヒヨッ子ならチョロいもんだが
かなりの飲み手、それも馬並みの酒豪相手に
独り0次会は無謀であった。
今後、くれぐれも墓穴を掘らぬよう、
いたく反省した次第なりけり。

=おしまい=

「鳥真(とりまさ)」
 東京都台東区谷中7-18-13
 03-3822-1810

2019年4月2日火曜日

第2101話 旧友 マニラより来たる (その3)

谷中霊園の北のはずれにある炭火焼き鳥店「鳥真」。
先客は若いカップルが2組の計4人。
オッサン同士はわれわれだけである。

数年ぶりの再会を祝って取り急ぎ乾杯。
中ジョッキはキリンの生である。
ともにかなりの呑み助につき、
ほとんど間を置かずにお替わり。
突き出し代わりに供されたキャベツの繊切りには
和風の胡麻ドレッシングがかかっていた。

客は手書きのメニューを見ながら
注文の品々をメモ用紙に書きだして提出するシステム。
串は鳥のほかに野菜もいくつか、計15種ほど。
健啖家の相方なら全品制覇は確定の赤ランプであろうヨ。

実はJ.C.、夕暮れどきから
いつものように独り0次会を敢行しており、
酒のアテはあまり必要としていないが
取りあえずペンを取る。

「半チャン、全部イッチャうでしょ?」
「ええ」

「ええ~っ!」じゃなくて
軽く「ええ」という御返事でありました。
だよね~。
だけどサ、いくら馬主でも、馬じゃないんだから
少しは戸惑いの色を見せてほしいよなァ。
どうやらこの人に取っては炭火焼き鳥も
単なるカイバに過ぎないということらしい。

ハツ、ハツモト、ふりそで、トマトの4串を書き出し、
店主に
「ボクはこの4本、こちらは全品ネ」
そう告げた途端、右隣りの女性客が叫んだ。
「うわ~っ、スゴい!」
だよね~っ。

まあ、彼女の発した一声のおかげで以後、
右側のカップルとは会話が弾むこととなった。
もっとも左側はわれわれの入店後、
すぐに退出していったがネ。

肝心の焼き鳥はいずれもハズレがない。
そうでなければ、帰国している友人を誘いはしない。
現に相方は続々と出て来る串々を次々に
嬉々として平らげている。
あたかもカイバをむさぼるサラブレッドの如くに―。

=つづく=

2019年4月1日月曜日

第2100話 旧友 マニラより来たる (その2)

ハナシを田原町の午前三時に戻そう。
さすがにわれら二人もバテてきた。
当方は翌日、ノースケジュールだったが
相方は知人の結婚披露宴が控えているという。

「半チャン、そろそろお開きにしようや」
「そうですネ、そうしましょう」
「じゃ、最後にクール・ファイブ歌ってくれる?」
「いいッスヨ」
「マイ・ベスト3の『東京砂漠』、『そして、神戸』、
 『噂の女』を3曲メドレーでお願い!」
「ハイ、ハイ」

とまあ、こんな具合で切り上げた。
翌日、いや、0時を回ってたから当日の夜だった。
彼から1通のメールが着信。

驚くなかれ、披露宴に出席したら
隣りに前川清が座ってたんだと―。
そいでもって余興で
「東京砂漠」と「そして、神戸」を歌ったんだと―。
さすがに披露宴で「噂の女」は歌えんけど、
いや、ビックリしたな、もう!

「さっきまで前川サンの曲、浅草で歌ってたんですヨ」
その旨伝えたら、清サンもビックラこいてたんだとサ。
そりゃ、そうだろうヨ。
しっかし、こんなことってあるんだねェ。

何でも互いの持ち馬の調教師が花嫁の父だったんだと―。
たぶん、二人が同席したテーブルは
馬主だらけだったんじゃないかな。

さて此度、待合せたのはJR日暮里駅・北口改札。
夕焼けだんだんへ続く御殿坂を上ってすぐ左折。
界隈で唯一のラブホテルを行き過ぎ、
地元民の住人すらめったに通わぬ裏路地をすり抜けて
やって来たのは昭和の匂い立ちこめる、
初音小路のアーケードだ。

全長20mくらいだろうか、その両サイドに
支那そば屋、煎餅屋、イタリア料理店、
小料理屋、コリアン・スナック、ワインバーなどが
ビッシリと軒を連ねており、
一番奥に各店共用の公衆トイレがある。

入店したのはカウンター10席ほどの「鳥真(とりまさ)」。
その名が示すように焼き鳥の佳店だ。
およそ2年ぶりの再訪で
相方にとっては初音小路そのものが初めてだった。

=つづく=