2012年2月20日月曜日

第255話 浅草公園の夜は更けて (その4)

浅草は観音裏の「基寿司」で9年前の回想の途中。
前回ふれたいさきの白子はこの店だけのもので
以来、他店ではただの1度もお目に掛かっていない。
生きものの精巣とは思いもよらぬ清涼な味覚だ。

蝦蛄(しゃこ)がまたよかった。
泣く子も黙る小柴産である。
この時代はまだ小柴の蝦蛄が健在だったのだ。
しかも出てきた5尾すべてが子ナシ。
俗にカツブシと呼ばれる腹子は
しっとりとした蝦蛄の食感を著しく阻害する。
「親父、なかなかデキるな」―あらためて襟を正した。

歯ごたえをキチンと残した穴子は見事な江戸前シゴト。
口の中でとろけるフニャチン野郎とは月とすっぽん。
永久歯の生え揃ったダイの大人が
離乳食みたいにヤワいのを有難がっちゃ、世も末だぜ。

親方は以前すぐ近所にあって
今は国際通りに移転した「重寿司」の出身。
独立して30年にならんとしている。
修業先の「重寿司」を訪れたのは1度きり。
鮮度オチの酢あじが匂ったせいで印象はよくない。
ほかの鮨種にも感心しなかった。
さすれば「基寿司」の親方は独立後初めて
自分の才能を開花させたことになる。

飲みものはキリンラガー、桃山ねぶた、田苑(麦)。
それぞれ存分にいただき、支払いは2人で1万8千円也。
あまりのレベルの高さ、良心的な会計に最敬礼だ。
これだから観音裏はおそろしい、あいや、ありがたい。

さて、今月3日、節分の夜である。
座敷に居並んだのは総勢13名。
せっかくだから顔ぶれを紹介しましょうか。
ここで数人にとどめると、省かれた輩がスネたり、
ひがんだりするので全員網羅せざるをえない。
書くほうも面倒だが読むみなさんもご苦労なこってス。
いや、お察しします。

それでは男女ごちゃまぜ、順不同で参ります。
泌尿器専門の医学博士と彼のフィアンセ、
某スポーツ紙の敏腕記者、中堅商社に勤めるITマン、
銘茶を製造・販売する会社の社長、某ホテルのパティシエ、
電気メーカーを退社した悠々自適生活者、
ハーピストと彼女の不肖の弟子、都心にビル所有の女社長、
婚活中の女薬剤師、ごくフツーのメタボOL、
といった面々だ。

各自ワインを持ち寄り、宴の幕は切って落とされたが
「浅草公園の夜は更けて」と題したこの稿、
いつまでたっても終わりゃあしない。
反省してまッス!

=つづく=