2012年2月15日水曜日

第252話 浅草公園の夜は更けて (その1)

元来、好きな街だからヒマさえあれば出向いていくが
規模の大小に関わらず、ここで宴会を企画すると
一様に色よい返事が戻ってくる、そんな街が浅草だ。
東京広しといえども江戸の名残りを色濃く残す街は
エンコ(園公)以外にありゃしないと極言しても
あからさまな異論が出ることはなかろう。

行きつけのおばんざい屋、
神保町「やまじょう」でよく顔を合わせるものの、
このところしばらく会ってなかったN濱クンと
「たまにゃ~、飲むかいの?」てなことになった。
「やまじょう」の娘のM由子がパリから帰国中とあって
3人で飲んだくれる手はずとなったが
歌好きのM由子がカラオケを熱望したこともあり、
もう少しアタマ数を増やす流れと相成った。

当夜、顔を揃えたのはほかに
C里チャン、A野ッチ、C枝子サン、K石クン。
総勢7名が浅草のランドマーク、「神谷バー」2階に集結した。
正式には1階が「神谷バー」で2階は「レストラン・カミヤ」。
なあにかまうことはない、
常連は1・2階合わせて「神谷バー」との認識だ。
雰囲気のある2階の居心地が断然いいし、
ノイズもタバコの煙りもぐっと少なく、
いちいち食券を買うわずらわしさからも解放される。
串カツ・鳥唐揚げ・カキフライで(揚げ物ばっかりやな)
生ビールを心ゆくまで堪能した。
ちなみにJ.C.は串カツとカキフライは好物だが
唐揚げを自分から注文することはまずない。
昨今の唐揚げブームは、ありゃいったいどうしたことだ。
輸入物の安い鶏肉に気色の悪い味付けをしおって。
現代日本人の味覚はかくも乱れけり。

女性陣はオサレにも白&赤ワインをたしなんでおる。
そのあと、いろいろ料理が運ばれたが
口にしてないから覚えちゃいない。
チェーン展開するビヤホールよりはマシなれど、
もうちょいとフードが充実してくれればありがたい「神谷」だ。

ここでJ.C.が提案したのは
カラオケボックスにおける曲選びに充てる時間のセーヴ。
誰かが歌っているときに
ほかの連中が必死こいて歌本パラパラってのは実に愚かしい。
よって7人が各自4曲ずつ、あらかじめリストアップしておき、
徒歩30秒の距離にある「BIG ECHO」へ移動したのである。

でも、やっぱダメだった。
風情のないカラオケボックスはどうも性に合わない。
次から次へと歌ばかり続いて、会話も何もあったもんじゃない。
老兵にはちょいとイカしたママのいるスナックが一番だわい。

そうしてこうして夜が更けて、最後に残ったのはオリジナルの3人。
伝法院と六区をつなぐフラワー通りの「Orange Room」にシケ込み、
飲んでしゃべって迎えた時刻は、東京午前三時半ときたもんだ。

♪   真っ紅なドレスが よく似合う
   あの娘想うて むせぶのか
   ナイト・クラブの 青い灯に
   甘くやさしい サキソフォン
   ああ 東京の 
   夜の名残りの 午前三時よ ♪
        (作詞:佐伯孝夫)


草葉の陰じゃフランク永井が
ほとほと呆れて果てていたことだろうよ。

=つづく=

「神谷バー」
 東京都台東区浅草1-1-11
 03-3841-5400

「Orange Room」
 東京都台東区浅草1-41-5
 03-3842-5188