2012年5月17日木曜日

第318回 「京味」の味

手元に一冊の料理本がある。
わが家の書棚に料理本はこれだけである。
著者は西健一郎サン。
そう、新橋の名店、「京味」の店主だ。
本のタイトルは「日本のおかず」(幻冬舎)。
書名通りに手の掛かる京料理ではなく日常の惣菜、
いわゆるざっかけない品々のオンパレードとなっている。

たまさか厨房に立つものの、J.C.は根っからの怠け者。
他に類を見ないほどのめんどくさがり屋だから
料理に精魂を傾けることはできない。
いかに手抜くかに血道を上げているのが偽らざるところ。

素人のために書かれた本だから
いずれもすぐ作れる簡単なものばかりだが
全80品のうち、試作したのはホンの数品にすぎない。
中でも気に入って複数回作った料理が、お揚げの甘煮だ。
ごくシンプルなので西サンと幻冬舎には無断で紹介しちゃう。

(材料)
 油揚げ4枚 砂糖35グラム 濃口醤油40CC

(作り方)
 ①鍋に水1.5カップと砂糖と1枚を8等分した油揚げを入れ、
   落としぶたをして火にかける。
 ②沸騰したら醤油を加え、煮汁がなくなるまで強火で煮含める。

これだけのことなのだ。
西サン曰く、彼が子どものときに
よく食卓に上がった思い出深いおかずとのこと。

この料理の説明の際、油揚げは必ず湯通しして
油を抜くと思っている方が多いが油を抜くか抜かないかは
料理によって使い分けるべきだと強調されている。
甘煮の場合は抜かずにその旨味を利用するのだそうだ。
このアドバイスには目からウロコであった。
言われてみれば、濃い味付けには抜かないほうがよいのが判る。
逆に水菜と京揚げの煮びたしなんぞは
しっかり油を抜いて薄口醤油で煮上げたほうがよいだろう。

さて、この油揚げの甘煮。
J.C.は煮切るだいぶ前に油揚げを半分引き上げてしまう。
言わば薄目と濃い目の2つの味に仕上げるのだ。
酒のつまみには薄口が、ごはんの友には濃口がよく合うからネ。
オススメは素うどんに薄口をのせ、きつねうどんに。
そして酢めしに濃口をのせ、稲荷寿司味の木の葉丼に。

甘く煮た油揚げが「京味」の味とは言いがたいが
「京味」の店主の味であることに間違いはない。
ただ一つ、困ってしまうのは冷蔵庫にコイツの作り置きがあると、
目にするたびにビールが飲みたくなっちゃうんですなァ。