2012年5月25日金曜日

第324話 職務質問されちゃいました! (その2)

人気(ひとけ)の無い交番を通り過ぎ、なおも東に歩を進める。
町名が清川から橋場に変わった。
江戸の昔には大名や大店(おおだな)の、
明治になってからは皇族・華族の別荘が
大川(隅田川)を臨んで並び立っていた景勝地・橋場である。
病床の三条実美を見舞って明治天皇が訪れてもいるのだ。
ところが時代下って現在は往時を偲ぶよすがとてない。
料亭「八百善」、うなぎ「重箱」、
ともにかつてはこの地で隆盛を誇っていた。

橋場の町を四半刻、グルリとめぐる。
かろうじて残る商店街はあくまでも庶民的。
清川に舞い戻るとくだんの交番は
依然として空っぽ(われながらシツコい)のまま。
おい、おい、どこまでパトに行ったやら。
たまたまパチンコ玉が出ちゃってんのかな?
ハハハ、冗談、ジョーダン、マイケル・ジョーダン。

官憲の悪態をついても何も始まらないから
天気もいいことだし、長距離散歩を決め込んだ。
再び吉原をかすめるように歩いてゆく。
途中、吉原一の歴史と伝統を誇る大籬(おおまがき)、
天下の「角海老」に突き当たった。
京都の二条城を想起させる派手なファサードが
いや、ご立派、ゴリッパ。

直進はできないから
(しちゃうと4~5万は取られるからネ)右折する。
ほどなく右手に小さな児童公園が現われた。
その名も吉原公園の真向かいには
当然のようにソープランドが林立している。

わざわざこんなところに公園作っても
子どもを連れてくる母親はおらんだろうに―。
まさか子持ちのソープ嬢(嬢とは言わんか)が
休憩時間に子どもと遊ぶためじゃあるまいナ。

何気なしに公園内に入ってブッタマげた。
何と驚いたことに、OLサンかな?
ベンチで独り、弁当をひろげているヨ。
春風の下、ケータイ片手に
涼しい顔しておひとり様ランチときたもんだ。
それもソープの呼び込みの目の前でだヨ。
チラリと一瞬、盗み見したところ、
ありゃあ、手造り弁当にちげェねェ。
たまらず1枚撮っちゃいました
白状するとアップをもう1枚撮ったけど、
さすがに載せるのははばかられるモンねェ。

しっかし、いい度胸してるなァ、このコ。
「ティファニーで朝食を」の向こうを張って
「ヨシワラで昼食を」かい? 
コイツはまっこと、絵になるワ。

こんなマネはまずオトコにはできっこない。
古い文化の破壊者にして新しい文化の立役者は
常にオンナとコドモというが、まさに言い得て妙。
それは紛れもない真実であろうよ。

=つづく=