2012年5月15日火曜日

第316話 やっぱりボケの始まりか (その3)

「丸千葉」をあとにして東に進むと
地番は日本堤から清川に代わる。
地名の清川は当地を流れる隅田川が
かつては清らかな川であったことをイメージさせる。
それが今じゃ、町の名にこそなってはいないが
ここはまぎれもなく山谷なのだ。

♪  今日の仕事は つらかった
   あとは焼酎を あおるだけ
   どうせどうせ山谷の ドヤ住まい
   他にやること ありゃしねえ  ♪

岡林信康のデビュー曲、
「山谷ブルース」の舞台となった、あの山谷である。
観音さまのお膝元から吉原、そして山谷と
いわば寺町・色街・ドヤ街を渡り歩いたことになる。
結界を超えて来たんだねェ。

寂れてはいるが、寂れ切ってはいない、
清川の商店街をちょいと横に入ってすぐ、
これまた寂れた昭和の食堂に遭遇した。
飲み屋ならちゅうちょなく入店するが
食堂となるとそうもいかない。
なぜならすでに二人の腹は八分目を通り越している。
モノを頼んでおいて残すのは行儀がよくないからネ。
といいつつも先日は中野でつけ麺を残しちまったがネ。

店の名は「日正カレー」。
迷いに迷って周囲の1ブロックをグルリと一めぐり。
看過すること能わずに暖簾をくぐると、はたしてこれが大正解。
アゴの軽い婆ちゃんと老猫・クロに迎えられ、
楽しいひとときと相成った。
週刊「FRIDAY」で連載中の「旨すぎる!男の昼めし」に
使える気がしたのでこれからも顔を出すつもり。
詳細は近々誌面で紹介することになりましょう。

パッツンパッツンの腹を抱え、「日正カレー」を出た。
腹に目盛りがあったなら、針は十二分目を指すことだろうヨ。
白髭橋を渡り、永井荷風の世界へと踏み込んでゆく。
まだどこか飲み処を探している愚か者を夜風が嗤(わら)う。
さいわい、T子姐さんは健脚のご様子、
文句一つこぼさずに歩を進めている。
オンナは黙ってオトコについて来なくっちゃ!

そうしてやって来たのは四つ木の大衆酒場「ゑびす」。
思えば遠くへ来たもんだ。
隅田川にとどまらず、荒川まで越えて来たものなァ。
さすがに「ゑびす」じゃ何も排卵、もとい、入らん。
いや、酒は別腹につき、問題ないが固形物がイケません。

何とか姐さんにお願いして菜の花のおひたしを注文してもらう。
そうしておいてこちらは生ビール&レモンハイときたもんだ。
いつの頃からか、いつでもどこでもテクテク歩き、
ダラダラ飲むのに歓びを感じるようになってしまった。
これじゃボケんのもあたりめェか。
いったいこんなオイラに誰がした? 責任者出て来い!
ン? テメエで勝手になったんだろうが! ってか?
ンだ、ンだ。

=おしまい=

「日正カレー」
 東京都台東区清川2-9-12
 03-3873-5810

「ゑびす」
 東京都葛飾区四つ木1-32-9
 03-3694-8024