2012年5月14日月曜日

第315話 やっぱりボケの始まりか (その2)

おのれのボケのせいで
せっかくの伝法院庭園は夢に終わった。
いや待てよ、翌日にあとワンチャンス残っている。
確かGW最後の日が庭園開放の最終日だったハズだ。

肩透かしを食わされたので、ちと早いが飲み始めることにする。
ポカポカ陽気のおかげでのどが渇いて仕方がない。
浅草六区の1本東側を並行して走る、
通称ホッピーロードの「正ちゃん」に赴くも
客がテーブルにあふれて席はナシ、まったくよくフラレる日だ。
申し訳なさそうな面持ちの店主・正ちゃんに手を振り、
ひさご通りを抜けて「正直ビヤホール」に達するも
入口の蛇腹式ドアには鍵が掛かっているじゃあないか。

そのまま言問通りを横断、千束通りを北上する。
花園通りから吉原に分け入り、
「正直ビヤホール本店」に到着した。
先刻の「正直ビヤホール」は正しくは分店というのだそうだ。
もっとも誰もそんなふうに呼んじゃいないけど・・・。

さて、到着はしたものの、ここもまた扉が閉ざされている。
(しょうがねェなァ)
口には出さずに言葉を飲み込み、
花の吉原・中之町を女連れで堂々と歩いた。
カップルで歩いちゃイケない一郭ながら
流れ流れて来たんだからしっかたあるめェ。
まあ、どう見てもT子姐さんが
ソープランドの面接志願者に間違えられることはないしネ。

吉原大門の真ん前に
「土手の伊勢屋」と「中江」の大正建築が並び立っている。
このいずれかに転がり込む選択肢はハナからない。
夕まぐれに一杯飲るに重量級の天丼はお呼びでないし、
ケトバシの鍋を突つくのもいささか腰を落ち着けすぎだろう。

暖簾をくぐったのはエリアの人気酒場、「丸千葉」であった。
看板のオニイさんの客あしらいがよいうえに
安くて旨いつまみがズラリと並ぶから
いつ訪れても立て混んでいる。
カウンターに4席だけ空いており、
われわれの直後に入ったオジさんたちが席を占めたら
以後の訪問客は丁重に断られるばかりである。

サッポロの生ビールが一気にのどをすべり落ちてゆく。
〆さばはなかなかだったが、チョイ焼きたらこはやや水っぽい。
谷中生姜はスジがなく、きわめて良質につき、
追加しようとしたら売切れの憂き目。
まぐろブツは菊正の1合瓶をもらって小皿に少々落とし、
生醤油と割って即席ヅケを自分で作った。
もちろん酒の残りはしっかりと飲んだのである。
醤油味のニラ玉が汁気の多いタイプでユニークだ。
串カツは長ねぎと豚肉のねぎまだが
肉がミルフィーユ風の、いわゆるキムカツだ。

この間にも現れ来る客たちが満席で断られ、
失意の表情を浮かべて立ち去っている。
下町人情に鑑みてあまり長居もできないからここでお勘定。
まだ明るさの残る日本堤の町へと出た。

=つづく=

「丸千葉」
 東京都台東区日本堤1-1-3
 03-3872-4216