2012年7月6日金曜日

第354話 西荻でハムレット

 ♪ 食って来るぞと 勇ましく
   誓って家を 出たからにゃ
   いいモン食わずに 帰らりょか
   西荻窪に 来るたびに
   必ず迷う 丼と麺  ♪

だしぬけに軍国調で失礼サンにござんす。
何だ、またかヨ! ってか?
まあ、まあ、そうおっしゃらずに先へお進みくだされ。

その日は大好きな町、西荻へやって来た。
しかるに丼と麺のはざまで心が揺れている。
丼とは何ぞや?
北口は「坂本屋」のかつ丼だわさ。
麺とは何ぞや?
南口は「はつね」のタンメンだども。

その朝は快適な目覚めを迎え、
しあわせの朝シャンで髪を洗いながら
目を閉じて考えあぐねていた。
もっとも洗髪中は誰しも目を閉じるけどネ。

かつ丼にするかタンメンにするか、それが問題だ。
昼めしにつき合ってくれるオフェリアがいたら
ハムレットもこんなに悩むことはない。
あいにく手駒にそんなのはおらんしなァ。
仕方なく独り降り立った西荻のプラットフォームである。
おっと、この日は早めに家を出たので
時間調整のため、一つ手前の荻窪で下車。
テクテク歩いて到着した次第。

「坂本屋」と「はつね」。
現地に乗り込んでもまだ決断がつかない。
駅から近いのは「はつね」だが
たったの7席しかないから行列は必至。
まっ、長蛇の列なら「坂本屋」に回るとして
取りあえず、のぞいてみるとしようか。

時刻は11時半ちょっと前。
あれれ、誰も並んでないぞ。
それどころかガラス越しに背伸びすると
ややや、空いてる、空いてる、しかも2席も。
今は亡きポール牧じゃないが思わず指パッチンだ。
いえ、若モンじゃないから実際に鳴らしゃしません。
鳴らしたつもり、つもり。

出来上がったタンメンの麺と野菜を丸ごとひっくり返す。
キャベツともやしがスープに沈んで麺が浮き上がった。
こうしておけば麺が簡単にはノビない。
澄んだスープは相変わらず。
肉の姿が見えないのも相変わらず。
でもこれが素朴に旨いんだよねェ。
700円を支払って表に出ると、並んでいたのはおよそ10人。
ご苦労なこってス。

勝手知ったる西荻の町を散策しながら、ふと思った。
(やっぱ、かつ丼にしときゃよかったかな?)
さんざ迷った挙句、未練心につまづいてるヨ。
バカか、お前は!

「はつね」
 東京都杉並区西荻南3-11-9
 03-3333-8501