2014年10月29日水曜日

第957話 よこはま・たそがれ 酒場のはしご (その8)

みなと横浜のちょいと先、戸部四丁目は
岩亀横丁の「常盤木」で小肌酢と対面している。
いや、マイッたな。
何がマイッたんだ! ってか?
とにもかくにもご覧くだされ。
コイツはすでにコノシロだ!
コノ、いいかげんにシロ! であった。
東京の下町ではこの手のシロものは小肌とは言わない。
This is a Kyohada!
そう、小肌じゃなくて巨肌である。
もう、見ただけでイヤ、イヤ!
ウチ、こんなん食べられへん!
浪花は法善寺のイトはんなら、ま~ずギヴアップだろう。

だけどねェ、箸もつけずに返品ってわけにもいくめェヨ。
われわれ善人カップルは
おそるおそる1切れずつ、口元に運んだべサ。

グワッ!
何なんだヨ、コノ生臭さツ!
二人、天を、もとい、天井を仰いで絶句の巻であった。
それもそうだ、添えられてるのはわさびじゃなくて生姜だもの。
いや、マイッたぜ。

「P子ッ、オマエ何だってこんなモン頼むんだヨッ!」
「あらッ、J.C.も賛成したじゃないッ!」

軽くいなされたが、いやはや、もめた、モメた、二人は揉めた。
近頃、ウチワで辞職した法務大臣がいたが
こちらもウチワもめであった。
結局は薬局、こいつは口直しが必要不可欠という結論にいたる。

そこは気心の知れた仲、キッスで口直しという妙案もあったが
公衆の面前でハレンチな所業は避けておきたい。
何かもう一品、つまみに託すことにした。

「生モノはいかんヨ」―言い捨てると、
「判ってる、ここは揚げモノでしょっ!」―ふむ、学習効果てきめんだ。

でもって相方が追加注文したのはコレ。
そうは見えないイカのかき揚げ
そうなんです、コレがイカのかき揚げなんですゥ!
先刻、いただいたニラ天と同じ技を使ってるな、こりゃ。
イカより玉ねぎが主張してるけれど、
ニラ天同様にサクサクした歯ざわりが魅力であった。

ニラ天とイカかき揚げ、この二品の殊勲により、
巨肌の失策を免責することにした。
許す、許す、J.C.は許す。

=つづく=