2014年11月20日木曜日

第973話 都内に「ときわ」は数あれど (その3)

駒込アザレア通りの「食堂 ときわ」。
突き出しのコンポテだけでビールの大瓶を空けてしまった。
この店は千葉県産黒毛豚を使用したロースカツがウリだが
そんなモンを食べてしまったら、あとがどうにもならない。
胃袋のちぢかまった老頭児(ロートル)はつらいネ。

ぼんやり店内をながめていると若い来訪者は
酒も飲まずにもくもくとロースカツ定食を頬張っている。
いいねェ、Oh, Young men !

お願いした肴はホヤである。
三陸の海の幸、ホヤの塩辛である。
朱鷺色、鮮やかなり!
アザレアのホヤはアザやかであった。

必然的に日本酒が欲しくなり、小さな徳利を上燗でお願い。
ついでにらっきょうも頼んでしまった。

 燗酒に ホヤとらっきょの 浮世かな

テヘッ、句のデキ稚拙なれども、いい気分。

独りごちていると、M鷹サンが現れた。
意外に早いご到着じゃないか。
心なしかまなじりに疲労が見てとれる。
遅れてきた青年ならぬ、遅れてきた中年である。
大江健三郎のあの小説も読むには読んだが
ストーリーはきれいサッパリ、忘却の彼方だ。

グラスを合わせ、近況を報告し合ったあと、
相方はいきなり肉野菜炒めを注文。
おう、いいとも、いいとも、疲れてるんだねェ、
身体が野菜を求めているんだねェ。
見るからに健康的 
中華屋のソレとは微妙に異なる装いである。
特徴としては各種野菜のバランスのよさ。
ニラがうれしい、ナスが珍しい。
雑な中華屋なんぞに行ったら
廉価でカサの出るキャベツとモヤシばっかりなんてケースが多い。
豚小間も薄切りではなく、小塊というのがユニーク。
都内に数ある「ときわ」でも駒込店は指折りの1軒だ。

もう一品はつぼ鯛の一夜干し。
大根おろしは必要不可欠
つぼ鯛はここ10年くらい脚光を浴びている魚種で
ほとんどのケースが一夜干しか、粕漬け・西京漬けになる。
北海道辺りでも漁獲されるようだが
一大産地は太平洋のミッドウェー。
日米海戦の転機となったあのミッドウェーだ。
連合艦隊の艦船が海底にねむる海域で獲れたサカナを肴に
一しきり酒盃を交わした。

2軒目は駒込からそう遠くない動坂下のスナック「K」と決めてある。
久しぶりに軍歌でも歌うとするかの。

=おしまい=

「食堂 ときわ」
 東京都北区田端4-1-1
 03-3824-6070