2014年11月27日木曜日

第978話 巨星は星の彼方に (その3)

俳優・高倉健の真骨頂は昭和残侠伝シリーズに尽きる。
1965年から1972年まで全9作が公開された。
すべてを紹介するわけにはいかないので
未見の方には主題歌からイメージをふくらませていただこう。
言わずと知れた「唐獅子牡丹」であります。

 ♪  義理と人情を 秤にかけりゃ
   義理が重たい 男の世界 ♪

ヤクザ映画なんか観たくもない!
そんな方でも一度や二度は
耳にしたことがあるんじゃないかな?
まずはその3番から。

 ♪  おぼろ月でも 隅田の水に
   昔ながらの 濁らぬ光
   やがて夜明けの 来るそれまでは
   意地でささえる 夢ひとつ
   背中で呼んでる 唐獅子牡丹 ♪
     (作詞:矢野亮・水城一狼)

レコードにせよ、カラオケにせよ、収録されているのは3番まで。
中ではこの3番が一番好きだ。

今でも浅草に出向いた晩に
”川向こう”のビヤホールでひとしきり飲んだあと、
吾妻橋を渡り返して、”川こっち”に戻る道すがら、
隅田の水に映る光に残侠のよすがを偲ぶJ.C.なのだ。

ヨタもたいがいにしておくか。
しかしこの歌詞、背中(せな)に墨さえ背負(しょわ)なけりゃ、
竜馬か、レーニンか、はたまたチェ・ゲバラか、
革命児を喚起させるほどの異彩を放っている。
とてもヤクザの思想ではない。

佳曲「唐獅子牡丹」はほかに
映画のクレジットタイトルとともに流れた歌詞が
1番から5番まで存在するものとされている。
しかも”5番は3番と同じ”なんてワケの判らぬ扱いだ。
通しで5番まで聴いたことがないから
こんな位置づけは疑わしいと思う。
思いはするけれど、5番(実質4番まで)のうち、
好きな2番を紹介しておきたい。

 ♪  親にもらった 大事な肌を
   墨で汚して 白刃の下で
   積もり重ねた 不孝の数を
   なんと詫びよか おふくろに
   背中で泣いてる 唐獅子牡丹 ♪
    (作詞:水城一狼・佐伯清)

”親にもらった大事な肌を”、
”なんと詫びよかおふくろに”、
たとえ大日本帝国の軍人だろうが、
ご法度の裏街道をゆく渡世人だろうが、
トドのつまり、戻るところはおっ母さんなのだ。
母は父より偉大なり!

=つづく=