2015年6月10日水曜日

第1117話 渋谷はやっぱり駄目な街 (その4)

「にゅう鳥金」の焼きとんには何と粉わさびがたっぷり添えられていた。
豚のモツにわさびかえ?
感心しないねェ、わさびだったら断然、練り辛子であろうヨ。
東松山名物のやきとり(実際は豚のカシラ)には辛味噌が定番。
その影響からか都内の焼きとん屋でも辛味噌を見掛けることが
珍しくなくなった昨今だが、わさびは初めての経験だ。

無視するのが当然と思いつつもちょこっとレバに塗ってみた。
テヘッ、やっぱ駄目じゃん! 合うわけないヨ。
おまけにレバは焼き過ぎでパッサパサ、肉汁が完全に蒸発しちゃってる。
これにはこのままこっちが蒸発したくなったぜ。
シロのほうは辛うじて及第点といったところだ。

気を取り直して今度は焼き鳥。
正肉(もも)を塩で通すと、これにもわさび、そして櫛切りのレモンだ。
わさびには目もくれず、レモンを搾って口元に運ぶ。
う~む、さして旨いもんじゃないが、渋谷ならこんなものだろう。
やはり渋谷は食の不毛地帯だわい。

まともな昼めしを食べていなかったため、
3本の串では空腹を満たせない。
品書きを吟味するとオススメの一品に台湾焼きそばというのがあった。
ここで迷ったのはチキンライスに興味を持ったからである。

オムライスに席巻されて食べもの屋のメニューから
ほとんど姿を消してしまったチキンライス。
子どもの頃にずいぶんとお世話になった感謝と郷愁が相まって
オムライスを注文することはなくとも
たまさか食指が動くチキンライスだ。

はて、どうしたものかのう・・・。
まっ、あの程度の焼き鳥を供する焼き鳥屋のこと、
チキンライスで再びガッカリさせられるのが関の山であろうて―。
よってオススメの台湾焼きそば(600円)を選択した。

焼きそばは中太平打ち、パスタのリングイネを連想させる。
投入された具材は、豚バラ肉・きくらげ・キャベツ・
にんじん・ピーマン・玉ねぎ・にら・もやし。
肉野菜炒めに麺が混入する景色であった。

はたして食味のほうは突き出しに反して
化調に頼らないのがけっこうながら、まったく旨味ナシ。
結局は薬局だネ、これは―。
好感を持てたのは心温まるサービスで応じてくれた、
チャイニーズ・ウェイトレスのみ。

駄目な店に駄目な街、
こんな渋谷で遊び呆ける若者の行く末は推して知るべし。
”老爺心”ながらそう案じつつ、災厄の街から引き揚げたぞなもし。

=おしまい=

「にゅう鳥金」
 東京都渋谷区1-27-1
 03-3400-8270