2015年6月23日火曜日

第1126話 ジョージのお次はジョルジュ (その3)

平日の暖かい昼下がり。
言問通りと不忍通りが交差する根津の町。
「ちゃんこ大麒麟」の小上がりにて独り、
ランチの出来上がりを待っている。

フランス人の、おそらく夫婦であろう、
カップルが隣りに座っている。
ほとんど理解できない仏語の会話を心地よく聞いていた。
ところがあわてたのは接客のオバちゃんだ。
ランチメニューを片手に途方に暮れているではないか。
可哀相に―。

仕方なしに、というより多少の興味が生じていたので
「I think  I can help you」―
かような運びとなったわけだ。
オバちゃんは胸をなで下ろして席を離れて行った。
自分で言うのもなんだが
懇切丁寧に料理内容を説明して差し上げた。

ちょうどJ.C.が所望した③番が運ばれたおかげあってか
それを肉眼で確かめたご両人が選んだのも同じ定食。
百聞は一見にしかず、だものネ。
手元に届いた膳を披露しながら今一度の説明。
好奇に満ちた二十四の瞳、もとい、四つの瞳が輝きを増してきた。

じゅうぶんに納得してもらってからおもむろに箸をつける。
南まぐろの赤身と中とろ、
真子がれいの刺身はいずれもそこそこの水準。
惜しむらくはみな切り身が厚い。
殊にプリッとした白身の真子は食感がよろしくない。
ふぐだって、厚く切りつけると有り難みが薄れるもの。
小ぶりの桜海老かき揚げは期待通りの美味。
ごはんがすすみにすすんだ。

食後、仏人夫婦としばし談笑に及ぶ。
彼らの名前はジョルジュとミレイユだった。
ともに学者で今回の来日は学会への出席とのこと。
住まいは花の都・パリの中心部、
オペラ座近くのアパルトマンだというではないか。
へぇ~っ、あんな繁華なエリアに
アパルトマンがあるとは驚きだなァ。
もっともミレイユはとてもプチな物件だと言ったけれど―。

ところでジョルジュなる男子名は英語圏ならジョージ。
つい先日、ジョージ少年とランチをともにしたばかりだ。
何の因果かジョージのお次はジョルジュと相成った次第。
「Have a nice déjeuner (lunch)」―
そう言い残して、彼らより一足先に店を出た。

=おしまい=

「ちゃんこ大麒麟」
 東京都文京区根津1-1-11
 03-3823-5998