2015年9月22日火曜日

第1191話 鰊と鯨と穴子と数の子 (その1)

先月、お盆の真っ只中、浅草へ晩酌に出向いた。
観音さまの周囲の店でお盆休みをとるところはほとんどない。
訪問者には便利である。

通常、エンコ(浅草の隠語)では
浅草1丁目1番地の「神谷バー」か、
大川を吾妻橋で渡り、川向こうの「23 BANCHI CAFE」へ赴き、
冷えた生ビールを2~3杯空けてからヨソに移るのだが
その宵は、すし屋通りにある「三岩」に直行した。
相方は40年来の旧友・T栄サンである。

「三岩」は昭和の名残りが濃厚に漂う酒場。
俗にいう居酒屋とはまったく雰囲気が異なる。
寿司も天ぷらも、トンカツなんぞも出す、
いかにもエンコ的な食べ処にして飲み処といった風情。
好きなんだよねェ、こういう店舗がっ!

再会を祝してグラスを合わせ、簡単なつまみを注文しておく。
ここへ来ると、必ず頼むにしん酢、
たまあに頼むさらしくじらの2品だ。
あじ酢・小肌酢・たこ酢あたりにはしょっちゅう遭遇するものの、
北海道ならいざ知らず、東京でにしん酢は極めて珍しい。

 ♪ 海猫(ごめ)が鳴くから ニシンが来ると
  赤い筒袖(つっぽ)の やん衆がさわぐ
  雪に埋もれた 番屋の隅で
  わたしゃ夜通し 飯を炊く
  あれからニシンは どこへ行ったやら
  破れた網は 問い刺し網か
  今じゃ浜辺で オンボロロ
  オンボロボロロー
  沖を通るは 笠戸丸(かさとまる)
  わたしゃ涙で ニシン曇りの 空を見る ♪

           (作詞:なかにし礼)

にしんとなると、そこはもうほとんど条件反射。
脳裏をよぎるのは北原ミレイが歌った「石狩挽歌」である。
以前も当欄で紹介したが
言葉の錬金術師・なかにし礼の最高傑作がコレ。

歌詞の中にあって、意味難解な言葉の説明をしておこう。

筒袖
 つっぽはつつそでで、袂(たもと)のない筒型の和装労働着。
 ここでは赤い防寒着のこと。

やん衆
 一般にニシン漁に携わる漁師として解釈されるが
 本州(主に東北地方)から渡って来て
 雇われた流れ漁師の意味合いが強い。
 いわゆる季節労働者。

問い刺し網
 押し寄せたニシン(雄)の白子による海の白濁を確認する刺し網。

笠戸丸、この船については少々お時間拝借。
20世紀前半、およそ半世紀にわたって
実に誠に、数奇な運命をたどった、
日本の近代史を象徴する船舶である。

浅草へ飲みに来て、またまたハナシが大きく脇道にそれるが
いつもの悪いクセと思われて、ご看過くだされ。

=つづく=