2015年9月30日水曜日

第1197話 K嬢の里帰り (その3)

ここ20年来、都内有数の散歩コースとなった谷根千の一翼を担う根津。
その裏通りのバーに18年ぶりの再会を果たした男女が隣り同士。
よもやま話に花の咲かぬ道理がない。
”花咲か爺さん”と”華活け婆さん”が、席を同じくしたようなものである。

5席ほどしかない窓際のカウンターに2人だけだから
嬌声による迷惑を周りにまき散らすことはなかったが
もともとマシンガン・トークのK美クン、
五十路坂を越えてもその速射砲は衰えていなかった。
いや、マイッたぞなもし。

接客係が現れないのをよいことに一しきり口角泡を飛ばしたあと、
こちらはワインを、相方はつまみを、それぞれ選ぶ作業に入った。
その結果、注文したのは
バルベーラ・ダスティ サッコ ’11年とフロマージュの盛合せ。

フロマージュって何だ?ってか?
いえ、単なるチーズのこと、ただし、フランス語であります。
ちなみにイタリア語だとフォルマッジォ。
スカしてんじゃねェヨ!ってか?これは失礼、
あいすみませぬ。

バルベーラは北イタリア・ピエモンテ州を代表する軽やかな赤ワイン。
同州産出のバローロがイタリアワインの王様、
バルバレスコが女王と呼ばれるのに対して
バルベーラは王子的な存在と言えなくもない。
比較的廉価で気軽に楽しめるところがよく、
マイ・フェイヴァリット・セパージュ(ブドウ品種)の一つだ。
案の定、K嬢の表情にも満足感が露わとなっている。

一方のフロマージュは6種盛りであった。
その内容は、コンテ、ミモレット、カマンベール、
ゴロゴンゾーラ、ブリヤ=サヴァラン、
あとの1種がどうしても思い出せない。

いずれもバルベーラとの相性がよろしい。
もっとも通常の赤ワインであれば、通常のフロマージュと、
それなりのコンビネーションの良さを発揮してくれる。
とりわけ「美味礼賛」の著者にして
政治家でもあったサヴァランの名を冠した、
ブリヤ=サヴァランがピッタリであった。

逆に感心しなかったのはミモレット。
今は昔、小泉&森の深夜の会談において酒のつまみになり、
一躍有名になったオレンジ色のチーズである。

それにしても2020年東京五輪に関する一連の不祥事の責任者、
森喜朗オリンピック組織委員長の厚顔無恥ぶりはどうだ!
真っ先に表舞台から追放されるべき元凶が
いまだに生き残るどころか、ふんぞり返っていつ言語道断の醜態。
誰が猫に鈴をつけるのか、あきれ果てながらも注視している。

グチるのはよそう、せっかくの再会じゃないか。
とまれ、その夜はワインとチーズだけのささやかな宴でも
旧交を温めるにじゅうぶんな楽しいひとときでありました。

=おしまい=

「TAMAYA」
 東京都文京区根津1-1-6 2&3F
 03-5834-8771