2015年12月17日木曜日

第1253話 最後の牛もつ (その2)

昨日・今日と急いで書き進めている。
なぜかというと、すばらしい牛もつを販売してくれていた、
精肉店「明石家」が3日後の19日土曜日には
68年の歴史に幕を下ろすのだ。

J.C.はここで牛もつと豚の生ベーコンを買うのが常。
生ベーコンはすでに製造中止となっていた。
もちろん牛・豚・鶏の精肉や
とんかつ・メンチ・コロッケなどの揚げ物も豊富。
いつも店頭は買い物客でにぎわっている。

聞くところによると、揚げ物が一番人気であるらしい。
その日も店先に揚げ油のラードのよい匂いが漂っていた。
カツやフライにはラードがベスト。
子どもの頃からなれ親しんでいる香りであり、味なのだ。
ところが「明石屋」の揚げ物は一度も買ったことはない。

コロッケやイカフライをぶら下げて飲み歩くのはイヤだし、
ましてや歩き食いなんぞはもってのほか。
わが散歩コースの谷中銀座では
2軒の肉屋がこれでもかとメンチカツを売りまくっているが
小・中学生じゃあるまいし、いい大人が肉屋の店頭で
買い食い、立ち食いする姿は見られたものではない。
男女差別をしたくはないけれど、
奥様やお嬢様にはもっと羞恥心を持ってもらいたい。

さて、出来上がった自家製牛もつ煮込みを食卓に運んだのだった。
当夜の合いの手は月桂冠の上燗である。
上燗はぬる燗と熱燗のちょうど中間。
酒の燗はぬるい順から
ひなた燗→人肌燗→ぬる燗→上燗→熱燗→とびきり燗
となる。

グビリのパクリ。
いや、イケますねェ、実に旨いですなァ。
鍋半ばで粉山椒を振り、舌先に変化をつけてやる。
八丁味噌には七色より山椒が合うのだ。

「明石屋」の牛もつには
シロコロなんかに混じってフワ(肺臓)が散見される。
こいつが決め手でこんな牛もつはまず手に入らない。
J.C.の知る限りではほかに
台東区・山谷の旧ドヤ街にある「もつの針谷」くらいだ。

そのまた翌日、晩酌の友は残った煮込みであった。
一晩寝かしてるあいだにスペインの赤ワインを投入しておいた。
したがって当夜の酒は同じリオハのテンプラニーリョである。

前夜同様小鍋仕立てにしたが長ねぎは使わず、
代わりにハーブのタイムを散らした。
買い置きのバゲットもガーリックトーストにして添える。
二晩続きで牛もつ煮込みを堪能したものの、
消え行く老舗に思いをいたすと寂しさが降り積もる師走である。
 
「明石屋」
 東京都江東区門前仲町2-7-8
 03-3641-4002