2017年8月17日木曜日

第1680話 思い起こすはジェルミとカラス (その3)

料理のセカンド・ラウンド、いわゆるセコンド・ピアットを。
ここは2皿ともJ.C.が選択した。
相方に任せると何を選ぶか知れたものではないからネ。
くわばら、くわばら。

まずはイワシのベッカフィーコ。
サルデ・アル・ベッカフィーコである。
ベッカは野の小鳥の一種、フィーコはイチヂクのこと。
メニューには和名でムシクイドリ風とあったが
直訳すればイチヂククイドリが正しい。
もちろん野鳥はいろんな虫を捕食するから間違いではない。

ではなぜにイワシが野鳥に変化するのだろうか。
理由が実に面白い。
開いた小イワシの内側にリピエーニ(詰め物)を施し、
尾びれに向けてクルクルと巻き込み、爪楊枝で止める。
その姿が小鳥にそっくりなのだ。
もっと判り易く例えると、
冬の電線に並んで止まるふくら雀の如し。

パン粉をまぶしてオーヴンで焼き上げるこの料理は
レーズンとオレンジが名脇役となるが
当店ではケッパーとレモンを代用している。
なかなかの仕上がりで美味しくいただいた。

イワシのベッカフィーコ。
この名を聞くと真っ先に思い起こされるのは
伊・仏合作の1本の映画だ。
「誘惑されて棄てられて」(1964年)のメガフォンをとったのは
イタリアの名優にして名監督、ピエトロ・ジェルミである。

ジェルミを世界的に有名たらしめたのは
主演を兼ねた「鉄道員」(1956年)と「刑事」(1959年)だろう。
前者は映画のデキもよく、
カルロ・ルスティケッリのテーマ・ミュージックも大ヒットした。
後者は映画としては不デキながら主題歌が一世を風靡した。
そう、「死ぬほど愛して」(シンノ・メ・モーロ)である。

  ♪  アモーレ アモーレ アモーレ アモーレ ミオ
      ンブラッチョ アテーメ スコルド ニドローレ  ♪

歌っていたのはアリダ・ケッリ、ルスティケッリの愛娘だ。
初めて聴いたのは小学校二・三年生の頃。
子ども心にも染み入る名曲だった。

時は下って「誘惑されて棄てられて」。
前作「イタリア式離婚協奏曲」(1961年)に続き、
舞台はシチリア島である。
シチリアの古き悪しき風習を痛烈に批判するコメディを
覚えておられる読者も多いことだろう。
以下、次話で―。

=つづく=