2017年8月18日金曜日

第1681話 思い起こすはジェルミとカラス (その4)

映画「誘惑されて棄てられて」にこんなシーンがあった。
次女の婚約にまつわり、悩みの絶えない父親が
とにかく身を固めさせるため、
押し付けた婚約者の男を自宅の夕食に誘う場面。

「今晩の料理はベッカフィーコだぜい!
 ワイルドだろ?」

いや、「ワイルドだろ?」はJ.C.の創作だが
ふくら雀の小イワシを見るたびに
あのシーンがよみがえるのだ。
今も、今でも、これからも。

さて、さて、本駒込の「シシリア食堂」。
ここいらでグラスの赤ワインに移行する。
モンテプルチアーノ・ダブルッツォを主体に
シラーともう1種のブドウが使われており、
満足のいく口当たり。
5分後にはお替わりと相成った。

そして整ったのがセコンディの2皿目だ。
その名もノルマ風スパゲッティ(スパゲッティ・アッラ・ノルマ)。
またの名をスパゲッティ・アッラ・シチリアーナといい、
シチリアを代表するパスタの本場は
映画「ゴッドファーザー」の舞台ともなったカターニア。
島東部に位置し、北のタオルミーナ、
南のシラクーサとの中間点でほぼ等距離にある。

カターニアはシチリアの生んだ偉大な作曲家、
ヴィンチェンツォ・ベッリーニのふるさと。
彼の最高傑作として名高いのがオペラ「ノルマ」だ。
ネーミングの由来がお判りいただけたでしょ?

いきなり序曲に心を奪われる。
100作品近く観たオペラのうち、
序曲・前奏曲ではマイ・ベストと言い切ってもよい。
そして「ノルマ」とくれば歌唱の第一人者はマリア・カラス。
カラスの「ノルマ」か「ノルマ」のカラスか、
てなもんや三度笠。
殊にアリア「カスタ・ディーヴァ」(清らかな女神よ)は
必聴の名曲といってよい。

そんなん聴いたことあらへん。
大阪のらびちゃんはじめ、
読者の中には未聴の方も多かろう。
でもネ、けっこうな数の人が
知らず知らずのうちにこの曲を聴いてるんですわ。

映画「マディソン郡の橋」をご覧になった方は
半端な数ではあるまい。
ヒロインのフランチェスカ(M.ストリープ)が
ラジオを聴きながら家族のために
朝食を作るシーンを思い起こしてほしい。

夫・息子・娘がダイニング・キッチンに集まってくる。
娘がいきなりラジオのチャンネルを替えてしまう。
そのときヒロインが聴いていたのが
カラスの歌う「カスタ・ディーヴァ」でありました。

さて、ノルマ風スパゲッティはナスとトマトが命。
バジルとリコッタチーズは名脇役。
「シシリア食堂」のそれはレシピに忠実で
お味のほうもまことにけっこうでありました。

=おしまい=

「シシリア食堂」
 東京都文京区本駒込2-1-5
 03-6912-1411