2017年11月2日木曜日

第1735話 私を森下に連れてって (その5)

江東区・森下の夜はまだ終わらない。
いや、まだまだ夜とはいえない。
だって17時過ぎだもの。
これで終わっちゃ遠来の相方にも申し訳が立たない。

あらかじめ2軒目として心に決めていたのは「はやふね食堂」。
「魚三酒場」から徒歩5分ほどの距離にある。
のらくろゆかりの、のらくロード商店街を歩いていった。
この通りの店々にはずいぶんお世話になっている。
うなぎ、中華、ピザ、みな今も営業中なのは歓ばしい。

およそ4年ぶりで訪れた食堂は相変わらず、
店の顔ともいえる女将が接客を独りで取り仕切っていた。
70代とお見受けするが
あれからほとんど歳をとっていないかのよう。
声に張りがあって動きもそれなりに機敏、いや元気だなァ。
口八丁手八丁とはこういう人をいうのだろう。

おのおの菊正宗の一合瓶を燗してもらった。
同時にサービスのぬか漬けが運ばれる。
きゅうりと大根葉がちょっとづつだが
これを小鉢の単品で頼んでも
驚くなかれ、たった30円なのだ。
今どき30円で口に入るものなんてほかにあるだろうか。
手を合わせたくなるような値付けである。

つまみにはたら子ちょい焼きと里芋煮をお願いした。
それぞれ300円と100円。
相方は目をパチクリさせて言葉が出てこない。
世田谷区の住人にとっては
信じられない価格ギャップなのであろうヨ。

すでに1軒目でそこそこ飲んできてから
菊正のお替わりは自重したが
正一合はけっこう飲み出がある。
ほうれん草ごま和え(100円)と
玉子焼き(150円)を追加した。
いずれもおざなりでなくポーションがしっかりしている。
デフレもここに極まれり。

勘定を済ませて夜の町へ。
いつの間にか外は雨模様となっていた。
「あらあら、雨じゃないの、傘だいじょうぶ?」―
見送りに出てきた女将のやさしい言葉。
「うん、小糠雨だからネ」―
応えると、間髪入れずに
「欧陽菲菲だワ」
いや、その速いこと速いこと。
頭がちゃあんと回転してるんだ。

=つづく=

「はやふね食堂」
 東京都江東区森下3-3-3
 03-3632-3130