2017年11月10日金曜日

第1741話 ある晴れた日に「風速40米」(その2)

日活映画「風速40米」(1958年)を半世紀ぶりに観た。
監督は当時、新進気鋭の蔵原惟善、
企画は茶の間の人気者でもあった水の江滝子。
タイトル通りに嵐で始まり、
クライマックスは嵐の中の乱闘シーンだ。
おりから来襲した台風11号下でもロケが行われ、
それなりの迫力があった。

昭和33年の台風11号は”よろめき台風”と揶揄されたくらいで
何度も方向を変えたうえ、静岡県・御前崎に上陸する。
7月23日の夕刊に死傷者29人と報じられ、
江戸川区の旧中川が決壊している。

アクション映画とは裏腹に
強い印象を残したのは女優陣だった。
ヒロインの北原三枝は
親同士(山岡久乃&宇野重吉)が再婚したため、
裕次郎の義妹となる。

冷たさを備えた、さやけき黒い瞳が見る者を魅了する。
しなやかな肢体も往時の女優たちにはないもので
長身・足長の裕次郎には打ってつけの相手役だった。
二人の共演は新しい時代の幕開けを
文字通り、スクリーンに現出させていたのだ。

もう一人、渡辺美佐子がすばらしい。
裕次郎の弟分、川地民夫の姉はパリ帰りのシャンソン歌手。
役名が根津踏絵で
小池都知事が聴いたらギクリとするような名前だが
娘に踏絵なんて名を付ける親がいるものだろうか。

彼女の魅力は第一に演技力だけれど、
主役には向かない、あの面差しが好きだ。
主役に向かないのは暗さというか、
ちょいとした意地悪さが表情に出るからである。
しかし、それはそれで美貌に深味を与えてもいる。

加えてうなじのラインが美しい。
うなじとなれば日本の女優では桑野みゆきがナンバーワン。
一目見て惚れ込んでしまった。
みゆきには一歩ゆずるとして美佐子もなかなかだ。
とりわけ独りでステージに立つことの多い、
シャンソン歌手には大事だからネ。

現在でも女優業を続けていると聞くがトンとお目に掛かれない。
何年か前に観た「渡る世間は鬼ばかり」が最後だろうか―。
ちなみに彼女の亡夫はTBSのプロデューサーだった大山勝美。
「岸辺のアルバム」、「ふぞろいの林檎たち」を手掛けた敏腕だ。
そんな関係から「渡鬼」はじめ、
橋田壽賀子原作のドラマ出演が多いものと思われる。

男優陣は裕次郎映画の常連、
宇野重吉・金子信雄・小高雄二といった面々。
あまりに類型的ながら、それぞれにハマリ役では致し方ない。
とにかく半世紀も経って作品の真髄にふれた思い。
楽しい1本でありました。