2018年12月19日水曜日

第2027話 麻布十番のきみちゃん (その1)

歯科医の検診を受けながら目をつむって考えていた。
さて、このあとどこへ行こうかな?
そうだ、久方ぶりにきみちゃんの顔でも見に行くか―。
到着したのは麻布十番の町である。

♪  赤い靴 はいてた 女の子
  異人さんに つれられて 行っちゃった
 
  横浜の 埠頭(はとば)から 汽船に乗って
  異人さんに つれられて 行っちゃった   ♪
 
         (作詞:野口雨情)
 
1922年に生まれた童謡「赤い靴」の1番と2番。
この歌にはモデルとなる女の子がいる。
岩崎かよさんの娘のきみちゃんである。
幼いきみちゃんは結核に冒されており、
実際は汽船(ふね)に乗ることができなかった。
息を引き取った場所は
鳥居坂教会の孤児院、9歳のときだった。
現在、その地には十番稲荷神社が建っている。

そんな縁から麻布十番商店会が
近くにある広場、パティオ十番に
きみちゃん像を設けたのは1989年2月。
薄幸のきみちゃんだったが
スタチューはもうすぐ満30歳を迎える。

さて、その日。
十番稲荷に立ち寄ってからパティオにやって来た。
存在を知らない人なら見過ごしてしまいそうに
小さなきみちゃん像の前にしばしたたずみ、
(それじゃ、和人さんは飲みに行くネ)
言い残して立ち去る。

パティオに面した角地にわりと大箱のバーを発見。
あれっ、前からこんな店あったかな?
とにかく数年ぶりの麻布十番なのである。

店先に立ったら立ち飲みのワインバーだった。
それも主力はスパークリングで
その名も「bistro あわ」と来たもんだ。
さすがアザベーゼだネ。
こんなのを上野や浅草で始めちゃったら
不入りが続いて閉店の憂き目を見ること必至だろう。

ウリはグラスになみなみと注ぐ、こぼれスパークリング。
それがワンコインで飲める。
ビールを飲みたかったが、せっかくだからお願いしてみた。

=つづく=